「安い賃金の仕事なのは分かりますけどね。そりゃあ、次の仕事だって待っているかもしれないけれど、そういう、きちんとやらない、というのが一番困ると思うの。見落としたのかなんなのか、とにかく、虫が群がっているのを見た時は、もう本当に驚いてしまったわ。まだ手を付けていない食べ物の一部もやられてしまって、ほんと、どうしてくれるのかしらねえ」

 それは躾のなっていないデブの野ネズミと、ろくでなしの息子が、僕が掃除する横から菓子屑を落としていくのだから仕方がない。彼らはそうやって食べることを止めないまま傍観し続け、掃除する僕のあとを黙々と追い回すのだ。

 いつも僕が移動するたびに、先頭から大、中、小の列が出来る。

 ぼてぼてに太ったネズミは、本当に元残飯食いのネズミだったのかと疑うほど、もちもちとしたお腹といったふてぶてしい身体付きをしているし、ほんと飼い主である息子にそっくりだった。僕は彼らを見るたび、一度も目にしたことがない、この家の主人をありありと想像したりした。

 婦人は今日も、いつも通り柔和な口調で愚痴を言い続け、最後は丸く収めるような暖かい言葉で取り繕った。

「うふふ。あなたがねぇ、いつも頑張ってくれているのは知っているのよぉ? 今日も本当にありがとう。でもね、次からはこんなミスがないようにね」

 毎日これの繰り返しだった。いつもなら、これで終了して掃除が終わるまで再びの会話はない。しかし――

「三日間の夜をご存知ですか」

 そう僕が珍しく質問すると、彼女は小さな目を丸くして、後ろにいる息子と彼のネズミを見た。僕は世間話はおろか、形式上の少ないやりとりをするばかりで滅多に口をきかない性質だったからだ。