最近は雨が降らないせいか、駐車場の苔は茶色く黒ずんでいた。過ぎ去った夏の残り熱が立ち込めていて、微量ながら吹く風が汗の浮かんだ全身に涼しく感じられるのが、せめてもの救いだった。

 その駐車場と階段の少ないゴミを袋にしまったあと、僕は鬱々と各部屋の掃除にとりかかった。

 一階の一号室には、かなり太った婦人と、彼女によく似た息子が一人いる。キッチンと狭いリビング、両親と子供用に二つの寝室兼個室が狭い面積には詰められてあった。

 室内の至るところに保存食や食糧が置かれていて、大量の服や私物が積み上げられ整理も付かない部屋だった。けれど、それを脇へ押しやって、どうにか片付いて見えるように工夫して床を掃除するのが、僕の役目だった。

「きちんとやってくれなきゃ困るのよねえ」

 その婦人は、古風な三流映画さながらの気取った喋り方をした。盛り上がった頬の間にある小さく膨れた赤い唇は、いつも油が乗ったようにぬめぬめと光っている。

 実際、厚い唇を、冷めたフライドホテトや油菓子で照らつかせていたのは、彼女の十歳の息子の方だったが、僕にはその婦人にも強くそんな印象を抱いていた。室内が熱に蒸された食品のような匂いで充満していたせいかもしれない。

 彼女は、まあまあいい暮らしをしていた。夫の収入が僕らよりきちんとあるせいか、住みどころや部屋は小さくとも、衣食に関して全く苦労を知らないように見えた。

 汚い部屋の中で、体系や年齢に不似合いな上品なワンピースドレスに身を包み、早朝からメイクも耳飾りも真珠のネックレスも忘れなかった。身を着飾ることや十分な食べ物、苦労のない生活がご自慢で、その優越感から毎日僕にあれやこれやと言うを楽しみにしていた。