「先輩! ああ、良かった。先輩、ずっと眠り通しだったんですよ。見つけた時は、まさかと思いましたけど、どうして一番ひどい三区にいたんですか?」
「そこまでにしといてやれよ、ツエマチ」

 その時、三十代後半といった大柄な男が、褐色の手を彼の細い肩に置いて言葉を止めた。そして、僕を見ると温かみのある苦笑をこぼした。

「色々と起こったが、まぁとりあえずはメシが先だな。あんた、本当にずっと眠りっぱなしだったんだ、水も飲んだ方がいい」

 男はシズノと名乗り、数十年前、憲法が改正して出来た陸軍所属十三区分警護小隊の雇われだと言った。彼の話によると、二日目の夜に陸軍と空軍が、広大な旧市街地の十三区域すべてを包囲し、鎮静化に乗り出したのだという。

 夜に覆われた町で軍による作戦が決行された時、最新の閃光弾が炸裂して睡眠ガスがまかれた。軍の作戦は、出来るだけ死傷者を抑えることにあったようだが、彼らが暴動を止めに入った時は、既に多くの死体が転がっている惨状だった――という。

 これまでの格差に我慢のならなくなった群衆が、とうとう自分達よりも上にあるとする者達と衝突したこの騒ぎは、軍が双方を保護する形でどうにか収まったようだ。

 これまで手付かずだったこの地区の再生構築に、国がようやく乗り出すことが決まって現在、早急に話し合いが進められているのだとか。

 僕は、少量の水で乾いた口を濡らし、柔らかいパンを二ちぎり食べた。噛めば噛むほど甘い気がしたけれど、素晴らしいその食糧の感想は一つも思い浮かばなかった。確かに空腹はあったが、一口目のパンを噛み始めた瞬間から、胃は石がつまっているかのように重くなり、食べる行為を阻み出していた。