怨恨と報復の渦に包まれた町は、この世の終わりのような血生臭さに覆われた。高級取りや豊かな生活を送る人間、普段指示側にいる立場の者達が次々に襲われ、多くの労働者が群がって一人の人間を殴り殺す様子も至るところで見られた。彼らから食べ物を強奪しろという騒ぎも同時に起こり、腹をすかせた労働者達はようやく空腹を満たすことが出来たのだった。
僕は銃をベルトに差し、爆破された建物の前に腰を降ろしてその様子をぼんやりと眺めていた。アパートD棟から長いこと歩いたが、じょじょに激しさを増した騒ぎは、僕のことなんて眼中にもなかったのだ。
どのくらいそうしていただろうか。ふと、頭上の空に星が見え始め、僕は一日目がようやく終わろうとしていることに気付いた。でも、長らくじっとしていた身体は、散々動き回ったかのように疲れ切り、僕はもうそのまま動きたくなかった。
恨み事を言いながら死体の顔を刺し続ける若者、何人かが立てこもったビルをこじあけようとしている群衆、ネグリジェ姿で逃げる若い女を追う男達の姿を、ただぼんやりと眺める。バイクの後ろから伸びた紐に首を繋がれ、地面を引きずられている子供達が目の前を通っていった。
バイクが走り去った後、傍観者に回っている一人の浮浪者が、こちらへと気付いて向こうからやって来ながら、呑気な口調でこう言った。
「派手にやってるなあ」
彼が騒動を避けながら僕の前に辿り着いた時、人々から追われていた車に、ビルの群衆から助っ人に出た男達が飛びかかり、中から中年ドライバーが引きずり出された。
「兄さん、お腹空いてるんじゃないかい? ほら、少しは食った方がいいよ」
無精髭を生やしたその浮浪者が、僕に柔らかい上等のパンを一つ差し出す。まるっきり好意と純粋な善意しか見えない愛想たっぷりの表情で、きらきらとした瞳をしていた。
僕は銃をベルトに差し、爆破された建物の前に腰を降ろしてその様子をぼんやりと眺めていた。アパートD棟から長いこと歩いたが、じょじょに激しさを増した騒ぎは、僕のことなんて眼中にもなかったのだ。
どのくらいそうしていただろうか。ふと、頭上の空に星が見え始め、僕は一日目がようやく終わろうとしていることに気付いた。でも、長らくじっとしていた身体は、散々動き回ったかのように疲れ切り、僕はもうそのまま動きたくなかった。
恨み事を言いながら死体の顔を刺し続ける若者、何人かが立てこもったビルをこじあけようとしている群衆、ネグリジェ姿で逃げる若い女を追う男達の姿を、ただぼんやりと眺める。バイクの後ろから伸びた紐に首を繋がれ、地面を引きずられている子供達が目の前を通っていった。
バイクが走り去った後、傍観者に回っている一人の浮浪者が、こちらへと気付いて向こうからやって来ながら、呑気な口調でこう言った。
「派手にやってるなあ」
彼が騒動を避けながら僕の前に辿り着いた時、人々から追われていた車に、ビルの群衆から助っ人に出た男達が飛びかかり、中から中年ドライバーが引きずり出された。
「兄さん、お腹空いてるんじゃないかい? ほら、少しは食った方がいいよ」
無精髭を生やしたその浮浪者が、僕に柔らかい上等のパンを一つ差し出す。まるっきり好意と純粋な善意しか見えない愛想たっぷりの表情で、きらきらとした瞳をしていた。