僕は、いつもの時間ぴったりにアパートD棟についた。そのまま駐車場と階段のゴミを素通りし、普段のようにまずは一号室の呼び鈴を押した。

 すると中から、うきうきとした気分を隠しきれない夫人の、普段の演技じみた台詞が返ってきた。

「夜のままだから、もうそんな時間だなんて気付かなかったわ。待っててちょうだい。今、開けるから」
「はい」

 婦人の声がして、少しすると扉が開いた。

 扉が開いたと同時に、僕は正面に立った彼女の心臓に銃弾を撃ち込んだ。続いて部屋に上がると、初めて顔を見た太った夫と、そうして太った息子に向かって何発も撃った。弾数を意識していなかったせいで弾が切れてしまい、全員分にと用意していた替えの新しいものを追加した。けれど辺りを見回しても、例のネズミの姿はどこにも見えなくて。

 僕はその部屋を後にすると、二号室、三号室、四号室……と順番に殺していった。二号室の若いカップルは、情けない悲鳴を上げて逃げ惑ったが、就寝していた他の階の人間は殺すのも楽だった。

 用意していた予備の替えは全てなくなり、銃には二発の弾丸だけが残った。


 三日間の明けない夜が、至るところでの暴動を一斉に起こし始めた。「俺達はお前達と同じ人間だ」「差別反対」「平等」……自分の方こそは偉いと、日々下に見て好き勝手に文句や罵倒まで浴びせていた人間達に向けて、労働者にも心がある、ということが怒声と共に爆撃や銃声や殴打音の中で強く主張されていた。

 暴力があった。殺しがあった。爆発が一瞬の眩しさを落として空気を切り裂き、狂ったような悲鳴と暴言、飛び交う銃声も長いことやまずに続いた。