「おはようございます」

 僕がそう答えると、歩いてくる僕の足音を聞きながら、上司が「ふんっ」と鼻を鳴らしていつものように勝手に話し出してきた。

「はぁ、面白味もない光景だと思わんかね? ただただ真っ暗だ。おかげで、電気を付けるまでに何度か足をぶつけてしまったよ。君が気を利かせてもっと早く出勤してくれば、私はそんな思いもせずに済んだんだがね。はぁーっ、やれやれ、深夜出勤になったみたいじゃないか」

 上司がそう話す中、僕は銃を構えた。

「まっ、これを言い訳に休みを与えるなんてバカなことはしないがね――」

 そのまま僕は引き金を引いた。二回の発砲音が響いて、銃口から飛び出した銃弾が真っ直ぐ上司の頭部を貫き、頭蓋骨と脳の一部が血飛沫と共に後ろに弾けた。乏しい色彩の社内で、やけに鮮やかな赤が目新しいもののように目を引いた。

 僕は、崩れ落ちた上司の前を通り過ぎると、いつものようにブラインドを開けて朝の一回目のコーヒーを飲んだ。飲みながら開けた窓の外を眺めていると、パトカーの警告音がもう一つ遠くで現れて、じょじょに小さく壊れてゆくのが聞こえた。

 再び町が静かになる。

 しばらく静寂を聞いたのち、コーヒーを飲み終わったタイミングで僕は時刻を確認した。そろそろ出る時間だ。空になった紙コップを捨てると、結局は一人も出勤してこなかった社内を歩き進み、僕はいつも通りの時間、けれどいつもの掃除用具には手をつけず、銃を右手に持ったまま会社を出た。

 外は、朝だというに相変らず冷たくて静かな夜が広がっていた。ツエマチ君達や、その他の大勢の人々のことが脳裏を過ぎったが、騒ぎが始まっているなんて、まるで遠い世界のことのようだった。町は、まだ眠りに落ちて覚める気配がない。