だがその音は、じょじょに狂い始め、しまいに鈍い呻りを残して沈んでいった。まるで古いラジオが壊れてゆくような最後だった。僕らを縛り続けていた見えない何かが、プツリと沈んでしまった象徴や合図にも聞こえた。
「さぁ、出掛けよう」
午前七時十五分、僕はいつも通りの動きでもって夜のままの町を歩き出した。
そうして、いつもと同じく午前七時三十分には出社した。普段と同じく、一番に鍵を開けている上司が自分のデスクに腰かけていた。深夜出勤になったみたいじゃないか、と耳障りな音声テープのような声が聞こえてくる。ま、これを言い訳に休みを与えるなんてバカなことはしないがね……。
そんな上司の声が、そこでブツリと途切れた。一瞬で社内は静まり返る。
こちこち、と壊れかけた時計の秒針がリズムを打っている。冷房の稼働音が、ぶーんと低く呻っていた。
僕は、いつも通りの動きに従って社内を進んだ。デスクの向こうにあるブラインドを開けてみると、やはり外は夜に包まれたままだった。テレビやラジオで騒がれていたような、宇宙からの侵略だとかいう空を飛行する戦艦らしいものなんて、どこにも見えはしない。
ただ、現実が一時壊れてしまったのだ。
僕は、呼吸音が一つに戻った社内で、朝一番、出社した際にもらっているコーヒーポッドのところへ移動し、ワンボタンで紙コップに注がれる液体を眺めながらそう思った。
◆◆◆
僕の仕事は、旧市街地中央の区にあるアパートD棟の清掃だった。表の駐車場と階段を箒で掃き、ゴミを集め、毎日一階の一号室から三階の六号室までを、順に訪問して室内まで掃除してゆくのだ。
「さぁ、出掛けよう」
午前七時十五分、僕はいつも通りの動きでもって夜のままの町を歩き出した。
そうして、いつもと同じく午前七時三十分には出社した。普段と同じく、一番に鍵を開けている上司が自分のデスクに腰かけていた。深夜出勤になったみたいじゃないか、と耳障りな音声テープのような声が聞こえてくる。ま、これを言い訳に休みを与えるなんてバカなことはしないがね……。
そんな上司の声が、そこでブツリと途切れた。一瞬で社内は静まり返る。
こちこち、と壊れかけた時計の秒針がリズムを打っている。冷房の稼働音が、ぶーんと低く呻っていた。
僕は、いつも通りの動きに従って社内を進んだ。デスクの向こうにあるブラインドを開けてみると、やはり外は夜に包まれたままだった。テレビやラジオで騒がれていたような、宇宙からの侵略だとかいう空を飛行する戦艦らしいものなんて、どこにも見えはしない。
ただ、現実が一時壊れてしまったのだ。
僕は、呼吸音が一つに戻った社内で、朝一番、出社した際にもらっているコーヒーポッドのところへ移動し、ワンボタンで紙コップに注がれる液体を眺めながらそう思った。
◆◆◆
僕の仕事は、旧市街地中央の区にあるアパートD棟の清掃だった。表の駐車場と階段を箒で掃き、ゴミを集め、毎日一階の一号室から三階の六号室までを、順に訪問して室内まで掃除してゆくのだ。