「まあいいさ。君が生真面目な男なのは知ってるよ。今日もお疲れさん」
「はい。お疲れさまでした」

 僕は外へと出ると、静かに扉を閉めた。

           ◆◆◆

 僕の住んでいる部屋は、灰色にくすんだ鉄筋コンクリートの建物の五階にあった。

 建物と建物の間に挟まれた細い物件だ。昔、テナントだった各階を二等分し、数十年前からは六畳一間の住居になっている。傷や汚れの目立つベージュのリノリウムはその名残りで、狭いトイレとキッチンの他には、パイプベッドで精一杯のスペースだった。

 細いベッドマットは、クッションの一部が剥き出しになってすっかり黄ばんでいるが、まだ使えないことはない。もう長いこと、僕はそこにこの部屋にかかっていた古いカーテンを敷いて使っていた。そうすれば寝るのも座るのも、なかなか快適な寝台だった。

 僕は太陽が、巨大な黒いシルエットのようなもので飲まれるかのように隠れていってしまうのを、その岐路の途中で足を止めて見届けた。不思議な光景。その一つしか感想が浮かばなかった。

 部屋に帰った僕は、ベッドに腰かけ、低い位置にある窓をぼんやり眺め過ごした。外は真っ暗で、気付く目を閉じてしまっていて、次に目を開けた時には時計の時刻が少し進んでしまっていた。

 いつものことだけれど、くたびれて帰宅した後はそうやって少し仮眠をとってしまう。どうやら、またしても僕は、ベッドの壁に頭をよりかからせて少し眠ってしまっていた。

 何もしたいことはない。

 でもいつものようにして、受動的に動かされるがままのようにして立ち上がると、僕は夕食をとるべく普段と変わらないメニューでもって支度を整えた。

 床に座り込んで、目の前に広げた「夕食」を食べるべくとりかかる。しばらく時間を置いた保存タイプの固いパンは、水で溶かしただけで味気ない。それを少しずつ口に入れていきながら、動物の干し肉を一枚、小さく噛みちぎってゆっくり噛み砕いて食べる。木の皮のように固いそれは、噛みしめる分だけ動物性タンパクの旨味を口の中に感じた。