「その子は、君の大切な子だったのかい?」
すると、彼は一瞬固唾を飲んで、それからコクンと頷いてみせた。
「同じ施設を出た俺達は、血は繋がっていないけど兄弟で、彼女達は、俺達にとってみんな可愛い妹達でした」
「僕にも大切な人がいたよ」
そう答えた僕自身以上に、ツエマチ君が驚いたようにパッと目を向けてきた。普段あまりしゃべらない僕が、こうやって自分のことを話すのは滅多になかったからだろう。
僕は彼の話を聞いていて、唐突に、母親やカナミ先輩のことが脳裡を過ぎったのだ。そうして今更になって、僕は、彼らがとても好きだったことを思い出した。
必死に神様に祈っていたこともあった。母さんの病気を治して下さい、どうか先輩を助けて下さい、僕のもとから遠くへ連れて行かないで下さい、と……それなのに、これまで僕はずっと忘れてしまっていたのだ。
ぎしり、と胸の奥で歯車が重く動く音を聞いた気がした。ああ、と、吐息をもらして空を見上げる僅かな動作だけで、身体がぎしり、ぎしりと軋みを上げるかのようだった。
こんな風になってしまったのは、いつからだったろう。
誰かに対して親しくしたいという気持ちを、僕は初めて先輩に持っていたのだ。
僕は先輩であるカナミさんと、約二年を過ごした。彼はいつまで経っても、どこかあどけなさの残るきれいな顔をしていた。肌の色が白くて、それでも紳士という言葉が似合うほどすらりとした身体は立派な青年のもので、ぼくは彼のような大人になりたいと願いながら、二十歳を迎えた。
そう二十歳、二十歳だった……僕は、思わず口の中にこぼしてしまっていた。あ、と遅れた気付いたものの、ツエマチ君を見てみれば、一人想い耽って気付かないでいる。
すると、彼は一瞬固唾を飲んで、それからコクンと頷いてみせた。
「同じ施設を出た俺達は、血は繋がっていないけど兄弟で、彼女達は、俺達にとってみんな可愛い妹達でした」
「僕にも大切な人がいたよ」
そう答えた僕自身以上に、ツエマチ君が驚いたようにパッと目を向けてきた。普段あまりしゃべらない僕が、こうやって自分のことを話すのは滅多になかったからだろう。
僕は彼の話を聞いていて、唐突に、母親やカナミ先輩のことが脳裡を過ぎったのだ。そうして今更になって、僕は、彼らがとても好きだったことを思い出した。
必死に神様に祈っていたこともあった。母さんの病気を治して下さい、どうか先輩を助けて下さい、僕のもとから遠くへ連れて行かないで下さい、と……それなのに、これまで僕はずっと忘れてしまっていたのだ。
ぎしり、と胸の奥で歯車が重く動く音を聞いた気がした。ああ、と、吐息をもらして空を見上げる僅かな動作だけで、身体がぎしり、ぎしりと軋みを上げるかのようだった。
こんな風になってしまったのは、いつからだったろう。
誰かに対して親しくしたいという気持ちを、僕は初めて先輩に持っていたのだ。
僕は先輩であるカナミさんと、約二年を過ごした。彼はいつまで経っても、どこかあどけなさの残るきれいな顔をしていた。肌の色が白くて、それでも紳士という言葉が似合うほどすらりとした身体は立派な青年のもので、ぼくは彼のような大人になりたいと願いながら、二十歳を迎えた。
そう二十歳、二十歳だった……僕は、思わず口の中にこぼしてしまっていた。あ、と遅れた気付いたものの、ツエマチ君を見てみれば、一人想い耽って気付かないでいる。