「……人間、きれいなままやっていくには、相当の努力が必要なんだと思います。でも、誰もがもう限界なんですよ。このままが永遠、いや、もうしばらく続くだけでも、俺らは耐えられないと思います。『あいつら』は、俺達が、自分達と同じ人間だってことすら、すっかり忘れちまっているんじゃないですかね。だから俺も、どうでもいいや、っていうか……」

 彼は言い淀んだ。まるで、僕に打ち明けていいのか悩むように、しばらく視線を足元に落として考え込む。

「俺達が同じ人間であることを、奴らに知らしめてやるんです」

 とうとう、ツエマチ君がそう切り出して僕に目を戻した。

「先輩、これ、どういう意味か分かりますか?」

 彼は僕と目が合うと、途端に申し訳ないような、それでいて自信がなくなったかのような、よそよそしい眼差しをした。

「分かるよ」

 僕はそう答えた。胸の奥底に隠され続けた黒い感情は、いつしか我慢の限界を超えて、僕ら人間を耐えられなくする、といった先輩の言葉を思い出していた。

「無理なら、傍観者に回ってくれても大丈夫だと思いますよ。俺、先輩がどんだけいい人で、乱暴な仕草も暴言の一つもしない人だって知っているんで……」

 ツエマチくんは、もごもごと言葉を続けた。

「俺は仲間と一緒に、ただこの町の警察を潰していくだけです。警察だけじゃない。警備だとか、管理だとか、俺達をさんざん痛めつけて愉しんできた連中に、今こそ報復してやるんです」

 知っていますか先輩? 俺らの生きる世界は、とっても醜くて汚いんですよ。優しくて誰よりも人間として立派だった子が、親無しだから人権なんて関係ないと言われて、のうのうと普段はデスクに座っている奴らに、いいように強姦されて、飽きると口封じのために平気で殺されていく現実を――。

 語るツエマチくんの拳は、固く握りしめられて震えていた。歪んだ笑みは、強い怒りを完全には抑えきれていなかった。僕は気付いて尋ねた。