「先輩、面白いこと言いますね。でも、そうだな、自分達こそが人間の上に立つ人間だ、と思っているバカな連中が、王様や神様を気取って、自分達がしたくない苦労の全てを、俺達に押し付けて人生を謳歌しているのかもしれませんよ」

 冗談混じりだと言わんばかりに、彼は笑いを装って言っていたが、目はニコリともしていなかった。生きることすら疲弊し、絶望しきった中年の男を思わせた。

 ふい、とそのまま視線をそらされた。彼の目は、どこかぼんやりと遠くを見るばかりで、特定の対象物に焦点が合わされていない。

「寝不足なのかい」

 僕がそう声を掛けると、

「ちょっとだけっス」

 ツエマチ君が、向こうを見つめたまま肩をすくめた。俺は話をたくさんしなければならなかった、そして、それはここ数日激しく続いていたのだ、と、彼は独り言のように呟いた。

 少しの間を置いて、ツエマチ君はまた一人ごとのようにこう続けた。

 しかし、今日はもう話し合いもないだろう。出会い頭に少ない言葉が交わされ、各々のベッドにいつものようにして寝入り、それぞれが自分の定めた時刻に起床する。けれど、そんなには眠れないと思う。俺達は似たような強い予感を持っていて、それは現実が、ガラガラと崩れ落ちて行くのに似ている。夢を見ているようでもあるのに、まるで悟ったような冴えも感じるんだ……

「はじめは、戸惑ってる奴も多かったんですよ。でも、だんだんと分からなくなってきたんです。まるで、誰かに意思を操られて誘導されているんじゃないかって、思っちまうぐらい……」

 ツエマチ君の足元が、一瞬危うげにぐらついた。彼は両腕をだらりとさせたまま足を前後に開き、重心を固定して顎を持ち上げ、僕を見た。