あの時、僕自身がどういう行動をとったのかは、もうよくは覚えていない。

 当時の記憶はおぼろげで、ほとんど欠けてしまっていた。父親は初めから知らない。孤児院で働かせてもらいながら衣食住の世話になり、外で稼げるようになってから、今の職場近くのアパートの一室を借りたのだ。

 そうやってこれまでを振り返ってみた僕は、もう一つの違和感に気付いた。なんだか、思い出すぼくの過去の残像すら、別の世界の延長線みたいだなあと思う。

 過去の僕の道筋は曖昧で、そうして十八歳から清掃会社で働いてからのことさえも、まるで現実味がないように感じた。

「先輩、世界が本物だとか、偽物だとか、結局はどっちだっていいんですよ……同じように続く毎日に、ようやく一つの変化がやってきて、それだけで皆、もうじゅうぶんなんだと思います」

 ツエマチ君が、ぼんやりと遠くを見やってそう言った。

「果てのない毎日の延長線に、ポンッと終わりがやってくる。いや、もしかしたら本当は世界の終わりが半分は完了してしまっていて、ここが、本来あるべき今の世界の姿なのかもしれない」

 僕は、そうかもしれないな、なんて思った。テレビの向こうは作られた世界で、本当は、もうどこかしこも、ほとんどここと変わらない酷い町々が続いているのかもしれない、と。

「俺達は、終わりかけた世界の真ん中で、モニターの中に儚く消えてしまった未来を見ているんスよ。この世界には、きっともう、素晴らしい場所なんて一つも残っていやしない。誰かが裏で大きな陰謀を引いて、俺達全員を騙しているんだ」
「そうすることで、誰が一体どんな得をするんだろうね」

 僕がそう尋ねてやると、ツエマチ君は「ははっ」と乾いた笑みをもらし、鼻の上にくしゃりと皺を刻んだ。