それは僕が、これまで考えたこともなかった『未来』の話だった。けれど僕は彼の言葉の中で、一つだけ、自然と受け入れられる考えがあった。

 そうか、これまでの僕と同じように、みんなテレビに映る世界に違和感を覚えていたのか。画面から伝わる全ては、最下層の人間として生きる僕らにとっては、結局のところは全て嘘のような別世界の話で、結局のところ、僕らにとっては『ここ』だけが本物の現実で。

 ああ、僕らは何か大きな秘密を隠されたまま、朽ちていく世界の真ん中に立っているのかもしれない。

 大昔に世間を騒がせたという世紀末も、結局は起こらなくて、いくつもの過去が風化して旧市街地はすっかり寂れてしまったのは事実だった。少し前の都が、大きな計画のもと、莫大な予算を投じて別の土地へ移されたように、災害を見越した政府は旧市街地を残して、新しい土地へと逃げ出していったのだ。

 見捨てられたこの大きな町は、電力をあまり多く使わない旧式タイプの電車が、今も短い路線を残して稼働しているばかりだった。始発から終点まで、代わり映えのない荒廃した土地が続く。稼ぎもないので、僕はその先にある夢物語のような世界を見たことはない。

 テレビに映る自国は、清潔で美しかった。そこには僕らの町にはない全てが、何もかも揃っているかのようだった。

 無法地帯のような旧市街十三区では、これまで流行り病があり、大小様々な暴動もあって、毎日のように犯罪が起こり武器や人間の売買もあった。けれど、そんなことでは生き続けられないと悟った誰かがいて、暗黙のルールのようにして、今の静かな暮らしが定着していったのだ。子供が増えれば食べ物にも困るから、そういったことは次第に謙遜すらされていった。

 僕の母親は、幼い頃に過労と栄養失調で死んだ。