それから、何人もの人間が、同じようにして『死』や『失踪』や『事故』で入れ替わっていったが、僕の勤める清掃会社の業務は大きな変化もなく続いた。上司はずっとタバナさんのままだったし、それぞれの掃除道具が入れられた十八人分のロッカーも変わらなかった。
ビルの一階にある清掃会社には、相変わらず、上司の机と応接間じみたテーブルとソファのセットが窮屈そうに置かれている。錆び付いた縦長のロッカーが十八個連なっていて、これまでの業務日誌や書類が入れられた茶封筒や、分厚いファイルの棚がスペースを取り、掃除道具の消耗品が箱に入ったまま周囲に積み上げられている。
旧市街地では珍しいことではないか、この地区にあるのはほとんどが個人企業だ。僕らの上司は、妻と子を持つ『タバナさん』で、頭部中央にはすっかり肌が覗いている。ふっくらとした顔、膨れた鼻の上には、広い額や頭部のてっぺん以上に油がのっていた。
彼は多分、商の才能があったのだろう。誰かのために指一本動かすことも毛嫌うくせに、他人をこき使うのは上手かった。それでいて、お客を捕まえることにスイッチが切り替わると、途端に人の好きそうな物腰の柔らかい中年男になって「やあ、これはどうも」と饒舌に話しを持ちかけるのだ。
僕らの清掃のアルバイトなんて給料もたかが知れているが、彼が儲けているのは明らかだった。会社は面積の狭い古いビルの一階のままだったが、上司はいつも皺のない白いシャツを着て、上質なベストを着用し、この地区でなかなか販売店の少ない立派なスーツに身を包む。
車は錆一つなく走行音も静かで、彼は塵や汗臭い匂いとも無縁だった。強烈な香水の匂いは、社内の古臭い建物や備品の匂いすら曖昧になるほど、僕らの鼻先を痺れさせた。
ビルの一階にある清掃会社には、相変わらず、上司の机と応接間じみたテーブルとソファのセットが窮屈そうに置かれている。錆び付いた縦長のロッカーが十八個連なっていて、これまでの業務日誌や書類が入れられた茶封筒や、分厚いファイルの棚がスペースを取り、掃除道具の消耗品が箱に入ったまま周囲に積み上げられている。
旧市街地では珍しいことではないか、この地区にあるのはほとんどが個人企業だ。僕らの上司は、妻と子を持つ『タバナさん』で、頭部中央にはすっかり肌が覗いている。ふっくらとした顔、膨れた鼻の上には、広い額や頭部のてっぺん以上に油がのっていた。
彼は多分、商の才能があったのだろう。誰かのために指一本動かすことも毛嫌うくせに、他人をこき使うのは上手かった。それでいて、お客を捕まえることにスイッチが切り替わると、途端に人の好きそうな物腰の柔らかい中年男になって「やあ、これはどうも」と饒舌に話しを持ちかけるのだ。
僕らの清掃のアルバイトなんて給料もたかが知れているが、彼が儲けているのは明らかだった。会社は面積の狭い古いビルの一階のままだったが、上司はいつも皺のない白いシャツを着て、上質なベストを着用し、この地区でなかなか販売店の少ない立派なスーツに身を包む。
車は錆一つなく走行音も静かで、彼は塵や汗臭い匂いとも無縁だった。強烈な香水の匂いは、社内の古臭い建物や備品の匂いすら曖昧になるほど、僕らの鼻先を痺れさせた。