女子の告白を受け入れた敬人を拒んでから、敬人は一度も私の家にこなかった。朝、おはようと声を交えることもない。甘えたくなってぎゅっと抱きつくこともできなくなった。

 尊藤と峰野。反射板の役割も担うシールに振られた番号に沿って自転車を停める決まりになっていた。シールの番号は、一年生のときに一組で一番だった人から三組の三十八番までの百十二まである。

一組と二組は三十七人、三組は三十八人だったのだ。敬人と私はずいぶんと離れた数字を割り振られた。五十番と七十一番、二組の十三番と三十四番だった。

 毎朝遠くから、敬人の自転車が停まっているかどうか確認した。停まっている日もあれば、そうでない日もあった。けれど決まって、そのあとに会話はできなかった。それでいいのだと何度も自分にいって聞かせた。これでいい。敬人たちの邪魔をしてはいけない。

最後くらい、敬人にふさわしい人になりたい。ちゃんと大人っぽく、幸せを願って身を引きたい。惨めだなんて、他人にいわれて思い出したくない。わかっているのだから、改めていわれたくなんかない。ちょうどやろうと思っていたときに、それをやりなさいといわれるのに似た不快感がある。

 敬人が家にこないことに寂しさは感じていた。ああ本当にあっちへ行ってしまったんだという気持ちになった。本当に大切な人を見つけたんだと。

 二度目の席替えまでの間、敬人は私に一度も話しかけてこなかった。それも少し、寂しかった。けれどそれも当然のことだった。私はただの幼馴染、敬人にはもう、心を受け入れた相手がいる。わざわざ今まで通り親しく話さなくてはならないような理由もない。

 生きていかなくてはならない、と強く思った。失恋なんて特別な出来事じゃない。私にだけ起こった救いのない悲劇なんかじゃない。どこの誰もが経験したことのあるような、ありふれた寂しさ。

ゆっくりゆっくり癒えていく、ちょっとした傷。外せないピアスのようなもの。いつかは綺麗な飾りになる。宝石になる。