「高校じゃあ、やたらと声を掛けるのもまずいだろ。そっちには理事が帰ってきてるしな。若いのがいいと言われているが、大学生でも十分若いだろ。お前は話した通り、明美(あけみ)と一緒に理事の行動をチェックして、何かあれば富川(とみかわ)学長に知らせろ。ブツは配れそうなら配れ。とくにかく約束通り、三十人以上は集めなきゃいけねぇからな」
落ちてきた人形を拾い上げた雪弥は、反対側へと回ってガラス越しに三人を見た。
シューティングゲームをする理香と、シマと呼ばれた紫スーツの男の隣には、やはり白鴎学園高等部の制服を着た男子生徒がいた。常盤という少年の顔に見覚えはないが、白い肌が目を引く生徒だった。
黒に近い茶髪は癖がなく、薄い顔立ちは大人しそうな印象を覚える。しかし、長い前髪の間から覗く一重の切れ長な瞳は、怒りや不満を隠し持っているようにも見えた。
「常盤、物がなくなったら必ず俺たちか富川学長に言えよ。絶対、青い奴は飲むな」
どこか含むように告げたシマは、面白そうに笑っていた。常盤が「分かってますよ」と反論するように言いながら、辺りを慎重に伺ったあと話しを切り出す。
「で、あいつらからもらったあの青い奴、いったい何なのさ? 効き目が少ないし効果も短い、でも考えようによっては便利な物にも見えるんだけど」
伺われたシマが「さぁな」と、肩をすくめる。
「取引対象に飲ませろとしか言われてねぇし、俺らにも分からねぇよ。ビジネスで、ずかずか尋ねるわけにゃあいかねぇだろ? ただ、『絶対に飲むな』と言われたんだ。何か裏があるんだろう。俺ぁ青いやつを受け取るとき、あいつらの鞄に赤い別の物があることにも気付いたぜ。何に使うのかは分からねぇが、――そうだな、一言で片づけるんなら嫌な予感がする、だから絶対にやるなってことだ」
常盤が、シマの言葉を聞いて「それこそ納得出来ないし分からない」というような顔をしたが、理香がゲームを一緒にやりたいとシマにせがんで、話しは終わりになった。
常盤が苛立ったようにレースゲームを始めたタイミングで、雪弥はその場を切り上げる事にした。ストラップの紐がついた小さな人形を、そのままクレーンゲーム機に置いて帰ろうとして、ふと手を止める。
どのキャラクターかも分からない、その人形の間抜け面を見ていると、なんだか愛着が湧いて連れて帰る事にした。パーカーの腹部についているポケットにしまい、そこに両手を差しいれたままゲームセンターを出る。
歩き出した雪弥は、使い慣れた携帯電話をポケットから取り出しながら、建物の裏手へと回った。
※※※
『で、お前はその人形を飼う事にしたわけか』
「まぁ、そうなりますね」
人のないゲームセンターの裏手で、雪弥は静まり返ったアパートを見上げながらそう囁いた。
電話の相手は、上司であるナンバー1だった。しばらく空いた間の中で、彼がどこか呆れたように息を吐き出す音が続いた。
落ちてきた人形を拾い上げた雪弥は、反対側へと回ってガラス越しに三人を見た。
シューティングゲームをする理香と、シマと呼ばれた紫スーツの男の隣には、やはり白鴎学園高等部の制服を着た男子生徒がいた。常盤という少年の顔に見覚えはないが、白い肌が目を引く生徒だった。
黒に近い茶髪は癖がなく、薄い顔立ちは大人しそうな印象を覚える。しかし、長い前髪の間から覗く一重の切れ長な瞳は、怒りや不満を隠し持っているようにも見えた。
「常盤、物がなくなったら必ず俺たちか富川学長に言えよ。絶対、青い奴は飲むな」
どこか含むように告げたシマは、面白そうに笑っていた。常盤が「分かってますよ」と反論するように言いながら、辺りを慎重に伺ったあと話しを切り出す。
「で、あいつらからもらったあの青い奴、いったい何なのさ? 効き目が少ないし効果も短い、でも考えようによっては便利な物にも見えるんだけど」
伺われたシマが「さぁな」と、肩をすくめる。
「取引対象に飲ませろとしか言われてねぇし、俺らにも分からねぇよ。ビジネスで、ずかずか尋ねるわけにゃあいかねぇだろ? ただ、『絶対に飲むな』と言われたんだ。何か裏があるんだろう。俺ぁ青いやつを受け取るとき、あいつらの鞄に赤い別の物があることにも気付いたぜ。何に使うのかは分からねぇが、――そうだな、一言で片づけるんなら嫌な予感がする、だから絶対にやるなってことだ」
常盤が、シマの言葉を聞いて「それこそ納得出来ないし分からない」というような顔をしたが、理香がゲームを一緒にやりたいとシマにせがんで、話しは終わりになった。
常盤が苛立ったようにレースゲームを始めたタイミングで、雪弥はその場を切り上げる事にした。ストラップの紐がついた小さな人形を、そのままクレーンゲーム機に置いて帰ろうとして、ふと手を止める。
どのキャラクターかも分からない、その人形の間抜け面を見ていると、なんだか愛着が湧いて連れて帰る事にした。パーカーの腹部についているポケットにしまい、そこに両手を差しいれたままゲームセンターを出る。
歩き出した雪弥は、使い慣れた携帯電話をポケットから取り出しながら、建物の裏手へと回った。
※※※
『で、お前はその人形を飼う事にしたわけか』
「まぁ、そうなりますね」
人のないゲームセンターの裏手で、雪弥は静まり返ったアパートを見上げながらそう囁いた。
電話の相手は、上司であるナンバー1だった。しばらく空いた間の中で、彼がどこか呆れたように息を吐き出す音が続いた。