『はいはい、こちら捜査一課の内田(うちだ)っすけど。どうしました?』

 金島が電話をかけた相手は、刑事部捜査一課の内田だった。

 若手のキャリアでありながら、金島と出会って最前線で事件を追い続けている捜査員の一人である。ほとんど休日も取れない職場でも、しっかり睡眠と食事、間食のおやつと風呂を欠かさないという、ベテラン以上に器の大きい若手だ。

「内田。お前、今、組織犯罪対策課にいたな」
『そうです、そうです。つか、そっちに片足を突っ込んでいるだけで、最近はほとんど薬物取締捜査に加担してるんすけどね』

 あ、これって言っちゃ怒られるタイプのやつでしたっけ、と内田が抑揚のない声色で続けた。口が軽いと注意されるのを、彼は日頃から聞き流すくらい図太く気楽に過ごしている。

「いや、構わん。ちょうどタイミングがいい」
『あれ? 逆に褒められたんで、なんかちょっと怖いんすけど。何かありました?』
「今、麻薬や覚せい剤が出回っているだろう。爆発的に広がる前に、きちんと取り締まっておかなくてはいけないと思ってな」
『さすがっすね。ちょうど、今年入って検挙者が最悪な数字一歩手前ってところっす。ただ、今回はちょっと気になるものが』

 内田が言いかけた時、金島のオフィスにある固定電話機が鳴った。同じタイミングで、受話器越しに内田が『いてっ』と誰かに頭を小突かれたような声を上げる。

毅梨(きなし)課長、従順な部下に対する暴力反対ぃ。つか、課長になったのにまだ手先が荒っぽいのもどうかと思いますけど』
『やかましい! お前、また本部長に向かって軽い口を叩きやがって――』
『あ~、金島さん。俺の方でちょっと調べておくんで、また後で連絡します』
「宜しく頼む」

 金島は聞き慣れた男の声を聞き流し、内田にそう答えてから携帯電話をしまった。そして、そのまま固定電話へと持ち替えてナンバー1から追って指示を受けた後――


 金島は「4」の数字を持つ彼と、初めて言葉を交わすことになったのだった。