そこに務める者たちは総称でエージェントと呼ばれ、国が立ちあげた特殊部隊の軍人として日々務めていた。長い総称を使う事は滅多になく、国家の重要役職に就いている人間たちはそこを「特殊機関」と呼んだ。

 もともと、特殊機関総本部は、東京の国会議事堂地下と地上の二つに拠点を置いていた。本部を新しく移す事になった時、国が西大都市という新たな市を立ち上げるに至って、そこに巨大な国家機密の建物を作る計画を建てたのである。

 土地開拓の際、数年かけて最下層の階を持った地下を作り、都市計画でその周辺内に裁判所などを設けて建物の注意を外へと向けさせた。周辺にある近づきがたい雰囲気の「コンサルタント」や「事務所」も、表向きは税理士や弁護士事務所だが、そこに務める者は全て特殊機関の関係者であった。

 彼らは選び抜かれた鋭兵たちであり、どの特殊部隊にも勝る戦力を持っていた。偽名と嘘の経歴を常に持ち替え、一般企業や政府、刑事に紛れ込んで活動した。

 本部で活動する「国家特殊機動部隊技術研究課」や各地にある分館の「国家特殊機動部隊所属員」とは違い、本部直属で現場に立つエージェントは、武器の扱いや戦闘術も一流で、頭も切れる優秀な戦士たちだった。

 国家特殊機動部隊総本部のエージェントたちは、ナンバーでランク分けされている。個人が持つ技術や能力で与えられる数字が決まり、各地を転々とする日々の仕事ではナンバーを呼び合うのが常だった。

 所属するエージェントは百の桁からあったが、一桁は九つの席しかない。一人でエージェント数十人分の価値があるとされる彼らは、エージェントやそこに所属する者たちの頂点に君臨していた。

 一桁の数字に就いた九人のエージェントは、国家特殊機動部隊総本部トップクラスの幹部である。そのナンバーだけでも国を動かすほどで、歴代の日本総理大臣の後ろには、常にその九人のエージェントがいた。

 彼らは表では自分が動きやすい地位におり、その優秀な頭脳と能力を活かして大臣や最高裁判官、警視総監などといった役職に紛れ込んでいるが、一桁ナンバーの情報は国家機密のため明らかにはされていない。仕事で関わらざるをえなかった人間が、ごく一部の顔ぶれや、そのナンバーの存在を知っているにすぎないのだ。


 そんな特殊機関の総本部では、国家特殊機動部隊技術研究課によって、日々機材や武器などの発明が行われていた。エージェントが最強として恐れられるのも、彼らが作る物があったからといっても過言ではない。


 アメリカやロシアに続く変形型の小道具は、最軽量で持ち運びができ、スーツ型防弾具は打撃や衝撃を抑える優れ物である。三段階変速バイクは、搭載されたミサイル砲の威力に耐え、タイヤは高い場所からの落下や銃撃にもびくともしなかった。

 最近日本で誕生したもので、海外のエージェントたちに「傑作だ」と呼ばれているものがある。技術班と研究所が共同で開発した、新たなテクノロジーで作り上げた戦闘用車両である。

 前後に武器を搭載しているのは勿論だが、こちらは三段変速に加えて、風圧や走る場に対応する外部変形も備わっていた。走りやすさを優先されているので、ミサイル砲を防ぐことはできないが、従来と違って長距離跳躍とバランス走行にも耐えられる。またデザインがこれまでの堅苦しさから一変し、日本の新型プリウスとあって人気も上々だった。