「実は相手方が早めに到着しているんだ。先に見せてあげるよ。大量のヘロインはきっと壮観だと思う」
そのあとに人間だって取引されるんだ、と常盤は続ける。
そのとき、あるところへ視線を移した修一の表情から、ふっと驚きがかき消えた。小首を傾げ「あれ?」と控えめに出された声は、室内に満ちる重圧をすっかり忘れてしまっている。
「……なぁ、暁也」
常盤がヘロインがしまわれている旧地下倉庫について語る中、修一が服をつまんで引っ張った。調子が狂うようなマイペースさのおかげで、少し呼吸が楽になった暁也は、緊張を漂わせながらも「なんだよ」と答える。
修一は雪弥を凝視したまま、内緒話をするように暁也に頭を近づけた。
「…………雪弥ってさ、もう少し身長なかったっけ?」
「は? お前、いきなり何言って――」
「昼間に雪弥と喋ってんの見た時、常盤って華奢なんだなって思ってたんだけど」
でも俺は常盤をあまり知らないし、と修一は少し自信がなくなったように語尾を弱くした。ひとまず見てくれと促された暁也は、訝って二人の方へ人を戻したところで――それに気付いて息を呑んだ。
一緒に校内を出歩くようになってから、暁也は長身の自分より、雪弥の背丈の方が高いことを知っていた。雪弥は確かに細身であったが、意外と鍛えられたたくましい身体を持っていたのである。
昨年までは同じクラスであったし、校内でたまに見掛けることもあったので、常盤の身長が低いとは把握していた。
それなのに、目の前にいる今の雪弥は、向かい合う常盤とあまり変わらない背丈をしていた。いや、よくよく見てみると、なんだかずいぶんと細く幼い体系をしているような気もする。
改めてその姿の違和感を認めると、いよいよ全くの別人に見えてきた。細い身体は無駄な肉が一つもないほど鍛えられているが、顔から下だけを見ると、放送室にいる三人よりも年下の少年がそこに立っていると錯覚してしまう。
一度その事実に気付いてしまうと、自分たちよりも小さいことは明らかで疑いようがなかった。どうして雪弥の身長が低くなったのか分からないし、逆にいえば、どうして雪弥と同じ顔をしているのか、とまで考えてしまって、暁也と修一は声も出なくなった。
常盤が話しを続ける最中、ふと、目の前の雪弥がこちらへ視線を滑らせてきた。
一体何がどうなっているんだという訴えを察したのか、雪弥が何かを伝えるかのように、ゆっくりとその黒い瞳で視線の先を誘導した。疑問を覚えて彼と同じ方向へ目を向けた暁也と修一は、口から出そうになった叫びを慌てて喉に押しとどめた。
彼らの前にいる雪弥は、金具がついた黒いブーツを履いていた。靴底がひどく分厚い、身長を底上げするタイプの物である。
そのあとに人間だって取引されるんだ、と常盤は続ける。
そのとき、あるところへ視線を移した修一の表情から、ふっと驚きがかき消えた。小首を傾げ「あれ?」と控えめに出された声は、室内に満ちる重圧をすっかり忘れてしまっている。
「……なぁ、暁也」
常盤がヘロインがしまわれている旧地下倉庫について語る中、修一が服をつまんで引っ張った。調子が狂うようなマイペースさのおかげで、少し呼吸が楽になった暁也は、緊張を漂わせながらも「なんだよ」と答える。
修一は雪弥を凝視したまま、内緒話をするように暁也に頭を近づけた。
「…………雪弥ってさ、もう少し身長なかったっけ?」
「は? お前、いきなり何言って――」
「昼間に雪弥と喋ってんの見た時、常盤って華奢なんだなって思ってたんだけど」
でも俺は常盤をあまり知らないし、と修一は少し自信がなくなったように語尾を弱くした。ひとまず見てくれと促された暁也は、訝って二人の方へ人を戻したところで――それに気付いて息を呑んだ。
一緒に校内を出歩くようになってから、暁也は長身の自分より、雪弥の背丈の方が高いことを知っていた。雪弥は確かに細身であったが、意外と鍛えられたたくましい身体を持っていたのである。
昨年までは同じクラスであったし、校内でたまに見掛けることもあったので、常盤の身長が低いとは把握していた。
それなのに、目の前にいる今の雪弥は、向かい合う常盤とあまり変わらない背丈をしていた。いや、よくよく見てみると、なんだかずいぶんと細く幼い体系をしているような気もする。
改めてその姿の違和感を認めると、いよいよ全くの別人に見えてきた。細い身体は無駄な肉が一つもないほど鍛えられているが、顔から下だけを見ると、放送室にいる三人よりも年下の少年がそこに立っていると錯覚してしまう。
一度その事実に気付いてしまうと、自分たちよりも小さいことは明らかで疑いようがなかった。どうして雪弥の身長が低くなったのか分からないし、逆にいえば、どうして雪弥と同じ顔をしているのか、とまで考えてしまって、暁也と修一は声も出なくなった。
常盤が話しを続ける最中、ふと、目の前の雪弥がこちらへ視線を滑らせてきた。
一体何がどうなっているんだという訴えを察したのか、雪弥が何かを伝えるかのように、ゆっくりとその黒い瞳で視線の先を誘導した。疑問を覚えて彼と同じ方向へ目を向けた暁也と修一は、口から出そうになった叫びを慌てて喉に押しとどめた。
彼らの前にいる雪弥は、金具がついた黒いブーツを履いていた。靴底がひどく分厚い、身長を底上げするタイプの物である。