他人事のように実にあっさりとした様子で告げられた言葉は、まるでなんでもない内容を語るように軽く、暁也は「は」と唖然と口を開けてしまった。修一も「え」と、鳥が喉を詰まらせたような声を上げて目を丸くする。

 いきなり問われた常盤自身も、不意を突かれたような表情を浮かべた。

「えっと、その、暁也は殺すなって言われてるんだ」
「ふうん。じゃあもう一人は?」

 せっかく銃を持っているのに、と雪弥は無害な表情で小首を傾げる。

「その銃で殺してみたくないの? 人間に試したこと、ないんでしょう?」

 幼い声色にも聞こえるあどけなさで言ってあと、彼が顔をほころばせた。まるでそれを誘うように常盤を覗きこむ瞳は、無垢を感じさせるほどあどけない。

 言葉を失う暁也と修一の前で、常盤が全身を震わせた。持っている銃を見下ろすと、口元をにやぁっとつり上げ、それから目の前の彼へと視線を戻して口を開いた。

「……雪弥、お前最高だよ。ははっ、あははははははははは!」

 狂った高笑いが静寂を破った。空気が一変し、禍々しい狂気が場に満ちた。

 まさか雪弥がそんなひどいことを口にするはずがない、と疑うように観察していた修一が、常盤の絶叫するような笑い声を聞いて飛び上がった。暁也も肌で異常性を感じ取り、思わず反射的に息を止めてしまう。

 もはや正気ではないのだと悟らされ、頭の片隅にあった、同級生が人を殺すはずがないという楽観視も吹き飛んだ。どこで狂ってしまったのか。もしかしたら、薬物で頭の中を溶かされたのかもしれないが……説得は不可能だということだけは分かった。

 銃や違法薬物を扱い、人を攫うことも平気でやってのける大人たちと行動している。彼らの仲間に加わっているのも常盤自身の意思であり、学園で起こっているらしい大きな事件についても、彼が自分から動いて深いところまで関わってしまっているのかもしれない。

 もう、彼は引き返すことが出来ないのだ。

「……そのうち、本当に人を殺すかもしれないな」
 
 暁也は苦々しく呟いた。修一は「俺はバカだからよく分かんないけど……かなりまずい、感じがする……」と唾を呑み込んだ。


 常盤はひとしきり笑ったあと、携帯電話で時刻を確認した。肩をすくめると「もう一人の方については、あとで考えるよ」と冷静さを装った。