しばらくベランダから茉莉海市の西側方面を眺め、修一はふと違和感の正体に行き当たった。一人で「あれ?」と首を傾げ、再度ここ一週間の記憶を辿って、ますますおかしいぞと呟く。
修一は雪弥のことをよく分かっているはずなのに「本田雪弥」のことを何も知らないでいる事に気付いた。
「進学校から来て、英語とスポーツが出来て……」
家族兄弟、食べ物や趣味の好き嫌い、他の誰よりも彼と話していたはずなのにそれが一つも分からなかった。記憶を辿るほど、修一の中にある「本田雪弥」がおぼろげになっていく。
思い返してみれば雪弥は話を聞くことが多く、自分のことに関してはほとんど話していないような気もする。
「んー……内気で人見知りって、そういうことなのか?」
自分のことをなかなか話せないタイプということなのだろうか、と彼はよく分からないまま結論を出した。そういうことにしとこう、と思考を続けることを諦める。
暁也とは、茉莉海市ショッピングセンター前で待ち合わせをしていた。修一は午後七時から始まったお笑い番組を見たが、ちっとも頭に入らなかった。午後九時からは大好きな刑事ドラマが放送されたが、気が乗らずオープニングと同時に電源を切った。勉強や宿題の代わりに触っているゲーム機も、この時ばかりは時間潰しにもならなかった。
静まり返った部屋で、修一は一人じっと座っていた。自分でも珍しいと思うほど、時計の秒針が打つだけの静けさを聞いていた。
ここに暁也と雪弥がいたらなぁ、と考えると少し楽になり、メモ用紙にハンバーグの感想と外出の言い訳を書いて食卓に置いた。
午後九時五十分を回った頃、修一がどこかに置いたはずの家の鍵を探していたとき、玄関の呼び鈴が鳴った。
部屋の奥から耳を澄ませた修一は、続いて急かされるように玄関がノックされて顔を顰めた。「もう、せっかちだなぁ」と立ち上がった拍子に、テーブルに置かれた菓子入れの中に放り投げられていた鍵の存在を思い出し、それをポケットに詰めて玄関へと走った。
修一は無防備に扉を押し開けて「どちら様ですか」と問いかけた矢先、片眉を引き上げた。比嘉家の玄関先には、スーツ姿のいかつい男が二人立っていたのだ。彼らは手慣れたように警察手帳を開き、「茉莉海警察署の者ですが」と告げた。
え、警察? つか、スーツってことは刑事か?
なぜうちを尋ねてきたのだろう、と修一は訝しがった。ドラマの刑事に憧れを抱いていたが、口から飛び出たのは露骨に怪訝そうな言葉だった。
修一は雪弥のことをよく分かっているはずなのに「本田雪弥」のことを何も知らないでいる事に気付いた。
「進学校から来て、英語とスポーツが出来て……」
家族兄弟、食べ物や趣味の好き嫌い、他の誰よりも彼と話していたはずなのにそれが一つも分からなかった。記憶を辿るほど、修一の中にある「本田雪弥」がおぼろげになっていく。
思い返してみれば雪弥は話を聞くことが多く、自分のことに関してはほとんど話していないような気もする。
「んー……内気で人見知りって、そういうことなのか?」
自分のことをなかなか話せないタイプということなのだろうか、と彼はよく分からないまま結論を出した。そういうことにしとこう、と思考を続けることを諦める。
暁也とは、茉莉海市ショッピングセンター前で待ち合わせをしていた。修一は午後七時から始まったお笑い番組を見たが、ちっとも頭に入らなかった。午後九時からは大好きな刑事ドラマが放送されたが、気が乗らずオープニングと同時に電源を切った。勉強や宿題の代わりに触っているゲーム機も、この時ばかりは時間潰しにもならなかった。
静まり返った部屋で、修一は一人じっと座っていた。自分でも珍しいと思うほど、時計の秒針が打つだけの静けさを聞いていた。
ここに暁也と雪弥がいたらなぁ、と考えると少し楽になり、メモ用紙にハンバーグの感想と外出の言い訳を書いて食卓に置いた。
午後九時五十分を回った頃、修一がどこかに置いたはずの家の鍵を探していたとき、玄関の呼び鈴が鳴った。
部屋の奥から耳を澄ませた修一は、続いて急かされるように玄関がノックされて顔を顰めた。「もう、せっかちだなぁ」と立ち上がった拍子に、テーブルに置かれた菓子入れの中に放り投げられていた鍵の存在を思い出し、それをポケットに詰めて玄関へと走った。
修一は無防備に扉を押し開けて「どちら様ですか」と問いかけた矢先、片眉を引き上げた。比嘉家の玄関先には、スーツ姿のいかつい男が二人立っていたのだ。彼らは手慣れたように警察手帳を開き、「茉莉海警察署の者ですが」と告げた。
え、警察? つか、スーツってことは刑事か?
なぜうちを尋ねてきたのだろう、と修一は訝しがった。ドラマの刑事に憧れを抱いていたが、口から飛び出たのは露骨に怪訝そうな言葉だった。