北西に門を構えた大学校舎には、平坦なコンクリートの駐車場が校舎前から西側に向けて続いていた。高等学校二つ分の厚みがある校舎を置き、北側にあけたスペースに体育館と二つのテニスコートに加え、小さな広場を持った憩いの場を設けてある。

 渡り廊下のように張り付いた大学校舎の職員室と管理室の横から、北東に伸びる高等学校校舎がそこからは見える。学校敷地内を取り囲む塀にぴったりと張り付いているので、そこから高等部側へ入る事は出来ない。

「理事であり、今は高等学校の校長を務める尾崎の不在の間に、誰かが大量のヘロインを持ち込んだ。大学生の中に使用者が出始めているようだが、それはどうやら覚せい剤らしい。吸引、注射の形跡がない事から口内摂取だろう。持ちこまれているのはヘロインであるにも関わらず、出回っているのが覚せい剤だというのも気になる」

 ヘロインは、アヘンから作られる麻薬の中で「薬物の女王」と呼ばれるほど強力な薬物である。強烈な快楽と禁断症状があり依存性も強い。確実に身体をぼろぼろにするヘロインは世界でも厳重に取り締まられている代物だが、薬物の愛好家たちの人気は絶えない。

 今年に入って中国で使用者、検挙者ともに急増したというニュースが放送されたのは最近の事である。

 価格も薬物の中では一番高価で、特に東アジアのものは純粋で値が高く、国外のマフィア、国内の暴力団組織の資金源とされている。薬物中毒を表す言葉に「ジャンキー」というものがあるが、これは本来ヘロイン中毒を指すものである。

「うちがマークしている東京の金融会社があるが、これから接触がありそうな気配がある。ヘロインは仕入れられたあと、合成麻薬として改良されると推測している」

 ナンバー1は断言したが、その表情は神妙だった。

 本来ヘロインなどの麻薬は、興奮を抑制するダウナー系に分類されている。覚せい剤はアッパー系と呼ばれ強い興奮作用がある薬物だ。覚せい剤は麻薬とは別ルートで入って来るといわれており、それが同時に同じ場所にある事には疑念が募る。

 机に置かれた学園見取り図には、赤い印が付けられた倉庫があった。両校舎の駐車場の間に挟まれた、細い庭園の南西側だ。

「ここに、大量のヘロインがあるっていうんですか?」

 見取り図を眺めながら、雪弥は疑う口ぶりだった。ナンバー1は一つ肯き、新しい葉巻を取り出す。

「大学にも高等学校にも、保管庫の役目をした地下倉庫がある。とはいえ、その印がついた場所は改増築前の旧地下倉庫らしくてな。使わなくなった古い道具や資料を少し置いているばかりで、今ではほとんど開けられる事もなく利用されていない。出入りするほどの用もないとの事で、その上に別の倉庫を置いていたようだ」

 その簡易倉庫の床部分に、旧地下倉庫に入るための出入り口が収納されているが、現在通っている学生でそれを把握している者はいない。そのため、その上にも道具が積まれているらしい。

「尾崎は、赤外線フィルター内臓の透視機器を眼鏡に仕込んでいる。それで麻薬を確認したらしい」
「ずいぶん物騒な理事長ですね」