「どういう風にその薬を完成させたいのかは知らんが、これ以上大きな事になる前に一掃したい。国外から仕入れている事から、新たに卸す場所を探すだろうと推測していた矢先に入ってきた情報が、この学校だった」

 それを聞いて、雪弥は「待って下さい」と口を挟んだ。

「ここって四国じゃないですか。麻薬は全国各地にいろいろと出回っているし、ここと繋がっているなんて考えるのは早急すぎますよ。それに、卸すとなると量も大きくなるし、それにヘロインって一番取り締まりが厳しい――」

 すると、ナンバー1がその台詞を遮るようにこう続けた。
 
「東京の事件に関わっている中国の密輸業者が、この四国にルートを変更している事は調べがついている。警視庁とうちでマークしている今回の首謀者だと思われる大手金融会社から、この学園の関係者と何度か接触があった事も確認が取れた。教育機関を頭に入れていなかったからな、やられたと思ったのは私だけではあるまい。尾崎(おざき)から連絡が来なかったらと思うと、ぞっとする」

 リザに書類を返されていた雪弥は、その印字された中に、ナンバー1が上げた聞き慣れぬ名を見つけて硬直した。「あれ?」とぎこちなく唇の端を引き攣らせて、数回その書類を見返す。

「…………あの、あなたの知り合いらしい尾崎って人、この学校の理事長の名前とかぶっているんですけど、これとは別人ですよね?」
「いいや、同一人物だ。元同僚で、片足をやられてから転職した男だ」

 なるほど、とやや呆れ気味に雪弥は呟いた。

 ナンバー1は、特に気にせず話を続ける。

「元々、奴は教育に熱心なエージェントだった。退職する際、出身だった高知県帆堀町のはずれにある広大な土地を買って学校を建てた。海が近くにある荒ら地だったが、奴のおかげでずいぶん周辺は綺麗になってな。地域発展に貢献して大学まで建てた」

 遠くを見つめるような目で語った後、ナンバー1は柔らかかった声色を尖らせて「連絡があったのは最近だったが」と話を戻すように言った。

「奴はうちからの年金で、発展途上国に新たに学校を建てて教師もやっている。今年の二月に出発して、一昨日帰ってきたらしい。久しぶりに連絡を受けたと思ったら、妙な事になっていると相談があった。学園敷地内に、大量のヘロインが持ち込まれている、とな」

 ナンバー1が言葉を切ると、タイミングを見計らったようにリザが動いた。

 机の上に並べられたのは、衛星から映された画像と学校敷地内の見取り図だった。二つの正門が設けられた、高等部校舎と大学校舎が同じ敷地内にある学校だ。

 南東に正門を置いた高等学校、北西に正門を置いた大学校舎があり、双方を分け隔てるように細長い庭園が設けられていた。高等学校に対して大学校舎は広く、途中から庭園を遮るように伸びている一階部分は大学職員室となっている。

 高等学校は正門から運動場が広がり、北側に体育館とテニスコート、南側に職員車両用出入り口が設けられた駐車場があった。そこから大学校舎に突き進む事は出来ず、間に庭園を置いた先に大学側が同じような駐車場を設けているが、広さはその倍以上はある。