話を聞いていた私は、自分には兄弟たちがいて、同じように捨てられたようだと理解した。どうやら彼らの方は、みな安全で暖かい家を見つけられたらしい。

 これまで存在だって考えたことはないのに、私は顔も知らない兄弟たちの幸せを知って、自分が安堵しているのを感じた。缶の中を綺麗に舐めながら、同じ母親から生まれ落ちたらしい彼らが、食べるのも寝るのも困らなければいいと不思議な思いを抱いた。

 どうやら冷めた私にも、まだそういった感情は残されていたらしい。

 ああ、貰われたのが私でなくて本当に良かった、と思った。

 満腹になった私は、最後の一つまで残さず食べきると、缶詰から顔を上げて顔についた食べ屑を手と舌で舐め取った。すると女が、軽く私の頭に触れてきた。

「おチビさん、美味しかった?」

 触れられるのは嫌いだったが、食事を与えられた礼のかわりにそれぐらいは良いだろう。穏やかな声で尋ねられた私は、抵抗しないことを決めて、素直に美味かったとだけ答えた。

 人間の女には、愛想もない「ニャ」という声に聞こえただろう。

 残念ながら私には、愛嬌というものがないのだから仕方がない。

「ミルクは卒業しているんですね」

 まだそこに立っていた男が、女の後ろから、私の方をずいっと見下ろしてそう言った。