「ほら、クロちゃん。優実ちゃんよ。大きくなったでしょう?」

 女が精一杯に微笑んで、震える声でそう告げた。私の前に出された小さな女の子が、大きな黒い目をきょとんとさせて、不思議そうに私を見つめている。

 そこには、娘の面影があった。
 
 娘の、小さな娘だ。

 私は、会うことの叶ったその子が愛おしくて鳴いた。けれど、上手く出せなくて、彼女までその声が届いたのかは自信がなかった。

「おばあちゃん。ねこちゃん、どうしたの? さっきまでねむっていたの?」
「……そう、ね。少し疲れちゃったから、横になっているのよ」

 そう答えた女の目から、また一粒涙が零れ落ちた。

 どう説明して良いのか分からないようだった。小さな女の子に見つめられた彼女は、そのまま夫へと目を向ける。

 妻の視線を受け止めた男が、大きく息を吸い込んだ。溢れそうになる何かを堪えるように唾を飲み込むと、孫の目線に合わせるように少し背を屈めて言い聞かせる。

「これから、少し遠い所へ行くんだ。そのために眠ろうとしているんだよ」
「とおいとこ?」
「そうだよ。とても、とても遠いところへ……。どうか名前を呼んであげて、きっと、喜ぶ」

 言葉を詰まらせながら、男がそう言った。遠いところ、と口にした彼の表情が悲痛に歪みかけて、思わずといった様子で目頭を押さえる。静かにこらえる彼の指先を、涙が伝った。

 女の子が小首を傾げた。それからそっと私に近づき、愛らしい手で私の頭を撫でた。