夢を見た。

 男と出会い、私が温かい家族の一員になって過ごした十四年という長い時間。その沢山の数え切れない日々を、私は深い眠りの中で振り返る。

 娘の初めての受験。入学に卒業、そして、結婚があった。
 小さな娘が美しい大人の女へと成長し、育った場を離れて巣立って行くまでを見守れた。そんな夢のような幸せな十四年だ。

 四つの季節と、数えきれないくらい沢山の行事もあった。

 春には小鳥が鳴いて、ぽかぽかとした天気には男と昼寝もした。
 夏には涼しいリビングに集まって、皆で笑いあった。
 秋には読書する男の膝の上で眠り、気付いたら男も寝ていて女が笑っていた。
 冬には、外から帰って来た女や男や娘が、暖かいと言って私をかわるがわる抱きしめていた。

 皆で記念写真も撮った。まだ三人と一匹だった家族が、いつの間にか、五人と一匹の家族になったのだ。二家族分の記念写真ですと伝えた時の、カメラマンの「猫がいる……」というぎこちない愛想笑いは、その後いい思い出話の一つにもなった。

 一緒に年月を数え、皆で笑い合った十四年だった。

 長いようでいて、あっという間だった、とてもとても幸せな日々だ。


「クロ、クロ……」


 不意に、見ていた十四年の回想が途切れた。

 闇の中で、私の名を呼ぶ泣き声が聞こえた。その美しい澄んだ声が私を現実へと呼び戻し、途端に懐かしい匂いが私の鼻先をかすめた。