「クロちゃんッ、これ? これに座りたいの!?」

 涙いっぱいの目を見開いて、女が慌てクッションを手に取った。男と自分の間にそれを置いてすぐ、男が私を持ち上げて、そのままクッションに私を横たえてくれた。

 嗅ぎ慣れた懐かしい匂いがする、私専用のクッションだ。その匂いを鼻で吸い込んで、私は少しだけ落ち着く。昔はあんなに大きく感じていたのに、今では手足がはみ出してしまうほど小さくなった。

 どうかお願いだ。最期に、あの子に会うまでは。

 私は、誰に言うわけでもなく懇願していた。一旦落ち着いたのを見た男が、慌てたように立ち上がって電話をかけるのが見えた。

 女が泣きながら私の背を撫でた。何度も何度も、私の名を呼ぶ。私は女が「クロ」と呼ぶ音に意識を集中して、一生懸命に自分という存在をこの世に繋ぎとめようとした。


 私は、まだ逝けないのだ。

 娘と、彼女の小さな娘に会うまでは、どうかココにいさせて。


 私は自分でも驚くほど、今になって、こんなにも生にしがみついていた。