秋が過ぎて、私にとって十回目の冬が訪れた頃、娘から素敵な報告が入った。

 なんと、娘が子を身ごもったのだという。

 電話で急ぎ知らせを受け、男も女も来年の七月にでも生まれる孫に嬉しそうにしていた。私も、娘から産まれるだろうその子供に、早く会いたい気持ちでいっぱいだった。

「あの子、ちゃんと出来ているかしら」

 男が仕事の関係で外出したある日、彼の帰りを待ちながら、テレビを見ていた女がふと呟いた。

 彼女の膝の上で丸くなっていた私は、首を持ち上げて女を見た。

 女の白い肌には、薄い皺がいくつか刻まれていた。こんなにも時が過ぎたのかと、私は今の自分に比べるとはるかに若い彼女を見て静かに思う。

「ただいまぁ」

 その時、まだ昼も過ぎていないのに、男が早々に帰ってきた。

 私は気を利かせて、女の膝からソファへと移ってベランダを見やった。女がソファから立ち上がり、リビングにやってきてコートとマフラーを脱ぐ男から、それらを受け取った。

「あなた、今日は早かったのね」
「今年は、もう出ることもないよ」

 男はそう言って、鼻を赤くしたまま私の隣に腰を降ろした。

「ただいま、クロ」

 おう、お帰り。

 私は、首だけで男を振り返ってそう返事をした。心なしか、男の髪先も袖口もパリッと冷えている気がする。それでいて細い手の指の先は、半ば体温が失われて白さが目立った。

 ずいぶん寒そうだな?

 続けてそう声を掛けてやったら、男が案の定「寒かったッ」と情けない声を出して、私をガバリと抱き上げてぎゅっとした。