そこにいた娘は、世界一美しい花嫁だと思った。

 近くまできた娘が、こちらに幸せそうに微笑みかけて涙ぐむ。そんな彼女に私は、おめでとう、と心の底から言葉を述べた。

 暖かいものが胸から込み上げて、溢れて止まらず、神へ愛の誓いをする二人を見つめながら私の漆黒の瞳を潤ませた。子が育つということは、こんなにも感動するものなのかと私は初めて知った。

          ※※※

 そうして娘は、私達のいる家から巣立って行った。

 リビングには、娘の高校の卒業写真と成人祝いの写真、そして結婚式の写真が新たに加わって飾られた。

 
 私はすでに戸棚にも登ることが出来ない身体になっていたから、男が気を利かせて、写真立ては私が見える場所に置いてくれた。ソファからでも十分見える位置だった。

 私の食事は、私が大好きな缶詰の柔らかい食事が増え、通常の食事も歯に優しく美味しいものばかりになった。こんな贅沢でいいのかと女に問うと、彼女はこう言った。

「いっぱい食べて、いつまでも元気でいてね」

 その言葉が胸にしみて、私は少しだけ寂しくなった。娘よりもぐんっと早く歳を取る私の肉体は、もう既に高齢であったから、私は遠慮せずそれに甘えることにした。

 娘が巣立っても、私たちの日常は、いつものように変わりなく続いた。

 男は午前中を書斎室で過ごし、午後は私と穏やかな時間を共にした。女は正午前に昼食を作って男と食べ、午後三時になるとリビングで紅茶とお菓子を用意し、私には柔らかい専用のつまみを与えた。