娘の恋人で、将来は結婚するかもしれないと家族で付き合ってみると、野口は本当に良い人間だと分かった。彼が大の読書家だったこともあり、男は都合が合うと自分から進んで野口を家に招き入れ、本の話に花を咲かせた。

 それを嬉しそうに眺める娘の膝の上で、私は安心して、満足して目を閉じた。卒業をしたら結婚するのかい、とは尋ねなかった。既に私はそれを直感していたからだ。

 娘は、とても美しい女へと成長していた。

 長い黒髪を背中に流し、慈愛溢れる落ち着いた眼差しで私を見つめる。綺麗な細い指で私の頭を撫でて、「クロ」と大人の女の声で私の名を呼んだ。それは、彼女の母親の声にとてもよく似ていた。


 その頃の私は、もう走り回れなくなっていた。老体越しに感じるその穏やかな声に、もうそろそろで娘の巣立ちが近いことを感じていた。

 すっかり大人になったんだなぁと、私は思いながら彼女に甘えた。

             ※※※

 大学を卒業すると、娘は同棲を始めて野口と結婚した。

 娘の要望で、野口は私も結婚式に招待してくれた。理由は「君を見ていると、不思議と伊藤さんと同じものを感じて」ということだった。つまりは父親みたいな、と言いたかったのだろうが、正確に言うなら母親だろう。奴はたまにこうして、私がメスであるのを忘れる。

 とはいえ、半ばそうではなくなってしまったみたいなものであるし、男と同様に私も娘として彼女を愛している。だから、なかなか鋭いやつなのかもしれないなぁ、とだけ思った。

 結婚式は、親族や友人、同僚も呼ばれて盛大に行われた。

 私は特等席に座った男の膝の上から、身を乗り出してウエディングドレスに身を包んだ娘を見た。主役のようにスポットライトがあたる二人を見て、ハッと息を呑んだ。