あれから、また季節は廻っていった。

 娘は大学に通い出してから、一人の男と交際を始め、大学二年目の春に彼を家に連れて来た。父親としてショックを隠しきれず驚いて言葉もない男と同様、相手の若造も、別の意味で驚きを隠せない様子だった。

「え、もしかして、あの映画の原作者の……? 雑誌の写真でも見た顔まんまなんだけど……」

 一体どういうこと? と若い彼が口の中で呟いて、しれっとしている娘の横顔を見た。

 どうやら、彼女の父親が有名な作家である事を、娘の恋人は知らされていなかったらしい。彼女は大学に入ってから、警戒心を持って父親のことを周りには話していなかったのだとか。

 事情をさらっと話す娘を前に、私としては、なんとも出来た娘であると思った。

 相手の男は、学生ではなく社会人だった。大学の近くの会社に勤めている男で、名を野口といい、娘より六歳年上であった。

 雰囲気は伊藤家の男と似ていて、初対面である私達を見つめる瞳も穏やかで温かかい。年齢以上に物腰柔らかそうな雰囲気を見て取って、私は、娘の相手に相応しいと直感的にそう思った。

 そう納得する私と、女の隣で、父親である男だけが困惑していた。――というより、喜んでいいのか、泣いていいのか分からない戸惑いを滲ませて、お喋り一つままならなかった。

 だが、しばらくすると、男も野口と打ち解け始めた。