娘は無事に良い結果が出た。それはとても喜ばしい事だったのだが、娘は弾けるような笑顔を見せなかった。どうやら、次が正真正銘の本番であるらしい。

「次は大学で試験を受けるのよ。つまりね、その学校へ行ってテストするの」

 娘は風呂を上がった後、ほかほかになった身体で、私をぎゅっと抱きしめてそう教えてくれた。よく分からないが、受験生というのはずっと忙しいんだなと思った。

 少しの期間を置いた後、娘は大学での試験に臨んだ。

 その当日も、私達は皆で娘を送り届けて見送り、皆で迎えに行った。

 ようやく終えた娘は、結果を待つ間、緊張しつつも肩の緊張が抜けたみたいな表情を見せていた。一面の雪景色にもかかわらず、気晴らしのように女とショッピングセンターや美容室に行った。

 私と男は、もっぱら家で留守番だった。
 男は、娘の受験で溜っていた仕事を片付けるのに必死だったのだ。


 結果発表の日、娘は友人達とその発表会場へ向かうことになった。彼女を玄関先で見届けた私達は、緊張しながらリビングで娘からの連絡を待った。

 どれくらい経った頃だろうか。

 すっかりテーブルの紅茶と珈琲も冷えてしまった頃、ようやく電話の音が鳴り響いた。パッと顔を上げて駆け出そうとした私を、男が素早く抱えて電話へと走り寄った。しかし、それよりも先に女が電話を取っていた。

「もしもし」

 急いたように女が声を掛ける。あっさり追い抜かれてしまった男は、「相変わらず僕より足が速い……」と、ちょっとばかしショックを受けたような声で呟いていた。

 すると、電話の向こうから興奮を隠せない声がもれてきた。

『母さんッ、私、合格した! 合格! すごい嬉しい! みーこ達も、合格してて……ッごめんね、なんか、ほっとしたら涙が、止ま、止まらなくて……」