「うん。推薦枠には入れなかったから、実力勝負しかないしね」

 娘は肩をすくめて、緊張気味を堪えるような表情で笑った。

 娘は、とても良い子へと育っていた。
 根気強くて、いつでも前を見ている。

 私には、それがとても誇らしかった。

 こんなに良い子なのだ。きっと、彼女には素晴らしい未来が待っているだろう。

 娘は緊張しつつも、目を真っ直ぐ向けて「頑張るしかない」と自分に言い聞かせるように言った。しっかりとご飯を食べ、それから女と一緒に家を出た。

「大丈夫。あの子なら、大丈夫だ」

 玄関まで送り出した男が、私を抱き上げてそう言った。まるで自分に言い聞かせるようだったが、不思議と娘や女よりも落ち着きがあった。

 お前の方が、いつもならそわそわしそうなのにな?

 私が尋ねると、リビングへと引き返した男が小さく苦笑した。私の額をぐりぐりと撫でて、「そうかそうか、クロにもあの子の緊張が分かるんだなぁ」と口にした。

「大丈夫だよ。僕は、あの子を信じているからね」

 ああ、そうか。ならば私も、そのようにして娘が返ってくるのを待とう。そして、いつも通り彼女が帰ってくるのを迎えて、めいいっぱいそばにいてやればいい。

 男が口にした『大丈夫だよ』は、見事的中して事実となった。

 後日、娘はその大事な試験とやらで、望んでいた通りの結果が出せたらしい。私は猫なので、難しいことはよく分からない。ただ、彼女が良い結果に喜んでいて、「本番のセンター試験も上手くいきますよーに!」とかなり前向きな様子でいたのが嬉しかった。