飲んでみると、渇いた喉にすうっと水がしみ込んでいくのを感じた。あの頃を思い出しながら、毎年この時期になると出てくる水の中の氷に、ちょいっと手を伸ばした。

 カラン、と器にあたる心地良い音がした。

             ※※※

 あっという間に夏休みが終わり、季節が涼しい方へと移ろって行く。それに従って、娘の勉強にも更に拍車がかかった。

 娘は学校帰りに塾へ通い、女が夜遅くに迎えに行くまで帰らなかった。休みの日も朝から夕方まで塾にいて、帰って来るとさっさと夕飯と風呂をすませて部屋から出て来ない。

 おかげで肌はすっかり白へと戻り、ポニーテールにした髪はもう女と同じくらい長くなっていた。食事の席で男が、「母さんの若い頃にそっくりだよ」と褒めると、娘は「受験が終わったらちゃんと整えて、長さを保ってみようかな」と嬉しそうに笑った。

 六度目の冬、娘は大事な試験があると言って、早朝から制服姿でリビングにいた。

 出掛けるまでの間もしっかり活用すると口にし、朝食準備が進められている中、ココアを相棒に勉強している。

 リビングには暖房も完備されているので、とても暖かい。けれど娘は、昔から寒いのがとくに苦手だったこともあり、私はいつも通り彼女の膝の上で丸くなっていた。私の身体は、じっとしているだけでとても暖かくなるのである。

「A判定、出ると良いわね」

 女が、食卓に料理を並べながら娘に言った。男は新聞を読みながら、娘を気にするように、ちらちらと視線を寄越している。