娘は最後の部活の日を終えると、大学受験に向けての勉強を本格的に始めた。

 帰ってきても部屋に閉じこもり、勉強の毎日が続いた。リビングにいても受験対策の教材と向き合っていて、いつもは遊び回っていた夏休みも、学校と図書館と塾の往復から始まった。

「あまり、無理はしないでね」

 女はそう言って、娘を気遣った。出先で休憩用にケーキを買ってきたり、夜遅くまで勉強している娘のためにオニギリを握ったりした。

 少し気晴らしをさせようかと、連休を利用して、男はドライブや一泊旅行に娘を誘い連れていった。ペット可能の宿泊先を見つけて、私も同伴させてもらった。娘は家族行事を大層喜んで楽しみながらも、単語帳を持ち歩き時間があればそれを眺めたりしていた。

 そんな夏の大敵は、なんといっても暑さだった。

 真夏日がピークに達すると、娘はもっぱら冷房が一番効くリビングで勉強をすることが多かった。男が有名大学を卒業していた事もあり、彼が娘の勉強を手伝った。女は時間を見計らって、冷たいデザートやドリンクを持って休憩を入れさせた。

 娘は隣に、いつも私用のクッションを置いていた。勉強が煮詰まった時、隣に座る私を撫でて頭の一休憩を入れ、それから再びテーブルに向かうという事を繰り返した。

「お疲れ、クロ」

 娘が早めの風呂に向かった後、テーブルに広げられた参考書や問題集、ノートを眺めていた私に男がそう言った。

 いつもは昼寝をたっぷりしている私も、娘が受験勉強に入ってからは、ほとんど早朝と夜の就寝がほとんどになっていた。身体が更に老いた私には、もう少し睡眠が欲しいくらいなのだが、贅沢は言っていられないだろう。

 だって私も、娘のために何か協力してやりたいのだ。