同じく当時を思い起こしたらしい男が、恥ずかしそうに頬をかいた。続いて彼女にニヤニヤと見つめられると、「敵わないなぁ」と白状する。

「そうだったね。きちんと交際出来るようになって、そうしたらよく食事に誘われるようになって……。でも君のお兄さんよりも年上だったから、しばらく彼には嫌われていたっけ」
「嫌っていたんじゃないわ。兄さんは、男らしくない男の人が嫌いなだけ」
「え」
「つまりあの騒動まで、あなたは軟弱認定されていたのよ」

 女が笑って、洗った私の皿を丁寧に拭って、いつものタオルの上に裏返しにして置いた。

 年に何回か、彼女の両親と兄はこの家を訪れた。みな、気さくなで良い人柄をしており、彼女の兄も父親もかなり大柄でたくましい男だった。

 私は、ひょろっこいお前でも好きだぞ。だから元気を出せ。

 私は励まそうとして、肩を落としている男にそう言った。すると、男は私を抱き上げて頭を撫でながら、深い溜息をこぼした。

「……結婚、かぁ」

 言いながら、ぎゅっとして「そうなったら寂しいなぁ」と私に弱音をこぼした。どうやら体格の件よりも、そちらに関して考えていたらしい。

 いずれ娘が巣立っていくのを想像して、私も男の腕にそっと身を寄せた。