「そうか。もうそんな年頃かぁ……」
私が顔を洗っていると、後ろにつっ立ったままでいた男が頭をかいた。カウンター越しに顔を合わせていた女が、その様子を見てクスリと笑う。
「私達も、それだけ歳を取ったってことなんでしょうね。いつかこの家に男の人が来て、『娘さんを下さい』なんて言うのかしら?」
女が茶化すように言うと、男が困ったように眉尻を下げた。
「よしてくれよ、まだ先の話だろう?」
「あら、あなたが言える台詞? 私があなたと籍を入れたのだって、私が高校を卒業してすぐだったじゃないの。まだ作家になりたてのあなたが、私の家に来て『娘さんが卒業したら結婚させて下さい!』って言って。父さん、あなたの土下座にはドン引きしてたわねぇ」
「うっ、だってその、正直に伝えなきゃって思って」
「だからって『手は出してません』『きちんと門限には帰しています』『たまにちょっとキスはしてますごめんなさいッ』て、普通そこまで告白までする?」
まぁおかげで交際許可も出たけど、と女は思い返したように言う。
私が顔を洗っていると、後ろにつっ立ったままでいた男が頭をかいた。カウンター越しに顔を合わせていた女が、その様子を見てクスリと笑う。
「私達も、それだけ歳を取ったってことなんでしょうね。いつかこの家に男の人が来て、『娘さんを下さい』なんて言うのかしら?」
女が茶化すように言うと、男が困ったように眉尻を下げた。
「よしてくれよ、まだ先の話だろう?」
「あら、あなたが言える台詞? 私があなたと籍を入れたのだって、私が高校を卒業してすぐだったじゃないの。まだ作家になりたてのあなたが、私の家に来て『娘さんが卒業したら結婚させて下さい!』って言って。父さん、あなたの土下座にはドン引きしてたわねぇ」
「うっ、だってその、正直に伝えなきゃって思って」
「だからって『手は出してません』『きちんと門限には帰しています』『たまにちょっとキスはしてますごめんなさいッ』て、普通そこまで告白までする?」
まぁおかげで交際許可も出たけど、と女は思い返したように言う。