私はクッションから身を起こすと、しなやかな動きで男の膝の上に飛び乗った。頭を優しく撫でる男の手に甘えるように身を寄せて、その温もりを噛みしめるように目を閉じる。


 拾われた当時は、想像もしていなかったことだ。

 私は、自分でも驚くほど、彼らのことが好きになっていた。

             ※※※

 それから二ヶ月が過ぎ、私が男と出会ってから、三度目の六月がやってきた。

 いつもより早く帰って来た娘が、リビングに置かれたソファにドカリと座るなり、テーブルに教科書やノートを置いた。一枚のプリントを片手に、ぱらぱらとページをめくって全てチェックしたかと思うと、難しい顔でそれらを睨み付けてじっと動かないでいる。

 どうした、娘。

 私は声を掛けて、彼女の隣に腰を降ろした。

 またしても宿題だろうか。そう思ってテーブルに並べられたものを見てみると、やはり普段から授業で使っているものばかりだった。この光景に覚えがあった私は、少し記憶を辿って『学校のテスト』かと気付いた。

「もうっ、なんでこんなに試験範囲があるのよ。部活も一週間ないとかひどい……恵理ちゃんのところは、試験前日まで部活あるのになぁ」

 別の高校に行った友達の名を口にして、娘が大きな溜息をこぼし、ソファにボスンっと身を沈めた。その振動で私の身体は僅かに飛び、弾力性のあるソファの上で数回上下する。

 すると、夕飯の準備を勧めていた女が、食卓を拭きながら娘に声を掛けてきた。