これまで体験したことのないごぉごぉ音を立てる風を受けて、まだ小さい私の心臓は激しく震えた。爪を立てて逃げようとした私を、いつの間にか風呂から上がった男が慣れたように押さえる。

 宿題とやらをやっている娘が、そんな私達の様子を興味津々に見つめていた。ぎゃあぎゃあ騒いでいた私は、プツリと抵抗の体力が底をつきて再び放心状態と化した。

 ……………。

 言葉もなくなった私は、気付くと解放されて暖かいクッションの上にいた。

 この家に来てからひどく体力を消耗し、二人の人間を力なく睨みつけていた。しかしながら、生き物というのは案外単純であるらしい。すぐに身体中の暖かさと、下にあるクッションのふわふわの心地が身体にじんわりとしみて、良い気分になってしまったのだ。

 とてもふわふわだ。そして、何よりこれまで感じたことがないくらいに温かい。

 思わず顔をクッションに押し付けた。とても優しい香りが私の中に広がった。

 ああ、天国だ。

 うとうとする私の周りに、三人の人間が集まる気配がした。でも私は、彼らを放っておく事にした。もう、これ以上何かされることもないだろう。

「ねぇ、名前、どうしようか?」

 女が楽しそうに言う声がした。