「言っておくけど、私、猫を飼うのは初めてなんだからね。突然ペットが飼えるマンションに移ろうって言われた時は、そりゃもうびっくりしたし、引っ越しで今日までバタバタして――あ、拭くのは私がやるしドライヤーも任せてちょうだい」
「えぇと、君、動物のドライヤーは初めてなんじゃ――」
「きっと平気よ、子育てをしているママをナメないで」

 女は、問答無用と言わんばかりに続ける。

「だから、あなたも一緒にこの子とお風呂に入るのよ。着替えはもう用意してあるから、そのまま入ってきてらっしゃい」

 はい、と言って、女がタオルに包まれた私を男に渡した。彼女のそばにいた娘が、興味津々にこちらを見つめているのが居心地悪くて、私はゆっくりと顔をそむけてしまう。

「ねぇお母さん、私がドライヤーしたいなぁ」
「子猫ちゃんと遊びたいなら、その前に宿題を片付けてくるのが先よ、優花」

 そんなやりとりをする女と娘の脇を、私を抱いた男がとぼとぼと通り過ぎる。

 私はすれ違いざま、娘の顔を盗み見た。彼女は口に空気をためて、饅頭のような顔になっていた。

「中学生って、なんであんなにいっぱい宿題があるんだろう。やんなっちゃう」
「覚えることが沢山あるからでしょ」

 女が娘にそう言い聞かせる声を聞きながら、私は男に連れられてとある部屋へと入った。むっと暖かい空気が鼻に触れ、なんだろうと私が顔を顰める中、男が後ろ手に扉を閉めた。