男の家には、一人の女と、子供の小さな女がいた。

 私は、大人の女が男の妻であり、小さな女が二人の子であると分かった。小さなその娘からは、二人と同じ匂いがしていてどこか似通った雰囲気を感じた。

 同じ呼び方になるのも面倒なので、私は男に紹介された言葉のまま、小さな彼女を『娘』と呼ぶことにした。

 どうやら先に話でもしていたようで、男が私を抱えて帰って来るのを待っていたらしい。長い髪を後ろでまとめた女が、タオルを手に駆け寄って来てタオル越しに私を抱え持った。

 温めてくれていたのか、その白いふわふわのタオルは暖かかった。ふんわりと良い香りがして、一瞬強張った私の身体から緊張が解けてしまう。

「まぁまぁ、こんなに冷たくなって」
「美代子、この子を先に入れてくるから」

 男が半ば濡れたジャケットを脱ぎながら言う。

 すると、女が首を横に振った。

「何を言ってるの。あなたも入るのよ、今すぐに」
「えぇ……? でも」
「でもじゃありません。あなた、私より軟弱なところがあるのに、風邪を引かない保証でもあるの?」

 ぴしゃりと言われた男が、「あの、えっと、先月は風邪を移してしまって、その、すまなかった」と気圧された様子で答えた。まだ根に持ってる……と情けない声を漏らす。