換気扇の上にあるごつごつとしたパイプの上に、灰色の大きなネズミが一匹いた。目が合うなり、そのネズミ野郎は『こんなに小せぇのになぁ』と心配そうに言って、こう続けてきた。

『ここを、ずっと奥に進んだ所に雨をしのげる場所がある。皆あそこを使っているんだ。俺たちだけじゃなくて、仲のいい犬猫だっている。チビっ子、お前もおいで』

 いや、私はいい。

 だから構うなと答えて、私は素っ気なく視線をそらした。そうしたら、上から驚いたような声が降ってきた。

『ダメだ、駄目だぞチビ。お前さんほどの小ささだったら、身体がもたない。早死にしちまうよ』

 ネズミがそう言い終わらないうちに、雨音がぐっと強くなった。彼が頭上を見上げ、それから後ろめたそうに歩み出しながらチラリと私の方へ視線を投げて寄越す。

『気が向いたら、いつでも来な。耳のいいやつだって沢山する。必要なら、めいいっぱい鳴いて助けを呼ぶんだぜ、道案内に駆け付けてやるから』

 ああ、気が向いたらな。

 私はぶっきらぼうに言葉を返し、濡れた地面に丸くなった。

 私は、生にしがみついてなどいない。要らないからという人間の都合で、こうして私という命が捨てられたのだと自覚してからずっと、この灰色の世界に期待なども持たずに暮らしてきた。ただただ、本能が私を生かし続けているだけだ。