「ほら、奥さんはよく買い物に来るけど、伊藤さんがここへくることってあまりないでしょう?」
それを聞いた男が、反省を促されたみたいな様子で「まぁ、確かにそうですね」と呟いて頬をかいた。
「ほとんど妻に任せっきりなので、そこは申し訳ないとは思っています。……僕は、その、いつも書斎にこもってばかりですから」
「帰りがてら、この商店街を一回りしてみるのもいいかもしれないわよ? 運動にもなるし、今日はどのお店もたくさん商品を入れて、いつもよりは長めに営業しているから」
「休日のセールでしたっけ。えぇと、あの、家で妻が待っていますので――」
その時、急いで缶の中身を空にした私が、ゴミ袋の間に引っ込んだのに気付いて男が「あ」と小さく声を上げた。同じく目を向けた女が、柔らかな苦笑を浮かべる。
「あらあら、逃げられちゃったわねぇ」
「僕、なんだかひどく警戒されちゃっているみたいで」
言いながら男がしゃがみこみ、空になった缶を拾い上げた。ポケットから、押し込んでくしゃっとなった小さな白い袋を取り出して丁寧に入れる。
「伊藤さんが悪いわけじゃないのよ。捨てられた猫や、外で懸命に生きている野良はそうなの。……その、すっかり人を信用出来なくなってしまっている子もいるから」
女が言葉を濁しつつそう教える。男が察した様子で、「そうですか」と悲しげな目を私に向けてきた。
それを聞いた男が、反省を促されたみたいな様子で「まぁ、確かにそうですね」と呟いて頬をかいた。
「ほとんど妻に任せっきりなので、そこは申し訳ないとは思っています。……僕は、その、いつも書斎にこもってばかりですから」
「帰りがてら、この商店街を一回りしてみるのもいいかもしれないわよ? 運動にもなるし、今日はどのお店もたくさん商品を入れて、いつもよりは長めに営業しているから」
「休日のセールでしたっけ。えぇと、あの、家で妻が待っていますので――」
その時、急いで缶の中身を空にした私が、ゴミ袋の間に引っ込んだのに気付いて男が「あ」と小さく声を上げた。同じく目を向けた女が、柔らかな苦笑を浮かべる。
「あらあら、逃げられちゃったわねぇ」
「僕、なんだかひどく警戒されちゃっているみたいで」
言いながら男がしゃがみこみ、空になった缶を拾い上げた。ポケットから、押し込んでくしゃっとなった小さな白い袋を取り出して丁寧に入れる。
「伊藤さんが悪いわけじゃないのよ。捨てられた猫や、外で懸命に生きている野良はそうなの。……その、すっかり人を信用出来なくなってしまっている子もいるから」
女が言葉を濁しつつそう教える。男が察した様子で、「そうですか」と悲しげな目を私に向けてきた。