「他の子たちにごはんをもらっていたから、大丈夫かなと思っていたのだけれど。こんなにガツガツ食べるなんて、相当お腹をすかせてしまったみたいねぇ……」

 彼女は申し訳なさそうに言った。それから、空になった紙の皿を回収すると「閉店時間に多めに持って来るわね」と約束して、また一旦立ち去ってすぐそこの店へと戻っていった。

「やぁ、こんにちは」

 食後、しばらく私がゴミ箱の間で仮眠を取っていると、昨日聞いた男の声がした。目を開けると、隙間の向こうに見える風景は黄昏色に染まり始めていた。

 どうやら、もう夕刻に入ったらしい。そう思いながら首を動かしてみると、すぐそこに昨日見た眼鏡の男が立っていた。手には、少しだけ柄の違う、例の美味そうな缶詰を持っている。

 彼は目が合うと、私を真っすぐ見つめたままゆっくりと近づいて来た。

 こいつ、一体何を考えている?

 ただの変わり者だろうか、それとも私を取っ捕まえる気でもいるのか? そう自問自答して見つめ返していた私は、これ以上寄ったら噛みついてやるぞと脅してみた。
 
 すると、男が立ち止まって、困ったように頭をかいた。

「まいったなぁ。もしかして警戒されてるのかな?」

 ああ、私を騙そうなんて数十年早いぞ、若造。

 私がそう言ってやると、彼は「うーん」と首を傾げた後に缶のふたを開けた。その途端にこの前嗅いだ時のような美味そうな匂いが鼻先をかすめて、私はピクリと耳を動かした。