目に留まるものは、足早に行き交う人々と大小様々な車。曇天の空には重い雲が広がっていて、ただただ湿った生温かい空気が流れている。

 そんな灰色の世界を、私はじっと息を殺して見つめていた。

 私が今いるのは、煩わしい音の溢れる街中にある、路地の冷たいアスファルトに置かれたゴミ袋の間だ。親の顔も家も知らない仔猫の私は、気付いた時からここにいた。

 重く垂れこめる曇天を見るのは、これが七回目だ。

 物心ついたばかりとはいえ、私は自分が捨てられた猫である事を悟っていた。

 幸いにして、恐らく悲観などありはしない。弱き幼い身で捨て猫だったという事実を理解してからというもの、私にはあらゆる希望も願望もありはしなかった。

 私の世界は、淡々と過ぎていくばかりで何も変わらないでいる。身を隠して息を潜め、ただただゴミ場の間からの小さな風景をじっと目に留める。昼過ぎと夕方、魚を売っている中年のふっくらとした女が、僅かながらのご飯を分けてくれる――それ以外、私の生活に変化はない。

「雨が降りそうねぇ」

 女がそう言いながら、いつものように魚の身を解したものが入った紙皿を置いた。

 きちんと火が通されてイイ匂いがする。私は警戒しながらそっと顔を出すと、これから降るだろう雨のことを思いながら、軽くて白い紙の皿に乗ったそれを勢いよく食べた。

 私は、とても腹が減っていたのだ。

 警戒しつつ食事を進めながら、私は七回の曇天のうち、二回は酷い雨が降ったことを思い出した。昨晩も、辺りが静まり返った暗闇の中、黒い空から容赦なく強い雨が降っていた。