ライブのあとのことは、あまりよく覚えていない。

 彼のところに行った直ちゃんにバイバイして、アヤと美羽と三人で会場を回った。チュロスを一本齧ったことは覚えている。ライブ前に部誌は全部は捌けたし、配布所に置いていた残部も夕方には全部消えていた。ありがたいことだ。

 一五〇部も刷った部誌が全て人の手に渡ったということは、私の拙作がこの世に出回ってしまったということになる。

 臆病で怖がり、おまけに自信がない私は、普段ならば取り乱して騒いでいることだろう。

 しかし、そうはならなかった。頭の奥がふわふわしていたからだ。

 夕方の渡り廊下で、私は文化祭のパンフレットをぱらぱらと捲っていた。



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第五十三回県立南高等学校文化祭テーマソング『群青、僕ら』/作詞・作曲:曽根崎望
歌『ブラックコーヒー』
Vo. 山城篤希(3-B)
Gu.Cho. 野中翔(2-D)
Ba.Cho. 曽根崎望(2-D)
Dr. 新藤愛斗(2-E)

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 彼らの名前はパンフレットの三枚目にデカデカと載っていた。一枚目は表紙、二枚目は校長先生や生徒会長のあいさつ文だから、彼ら『ブラックコーヒー』がこの文化祭の主役と言っても過言ではないと思う。

 私はツルツルにコーティングされた紙をじっと見つめ、『曽根崎望』と書いてあるところを爪でつーっとなぞった。

 美羽は『普通すぎるんだよね』とか言っていたけど、全然普通じゃないと思う。だってあんなに素敵な歌を作って、あんなに素敵な演奏をしてみせたのだから。

 『普通』の人間は、あんな風に光の中に立ってはいない。『普通』というのはそう、私みたいな――ううん、私は『普通』以下だな、と溜め息をついた。