夕陽が沈み、街が夜をむかえた頃。観光名所となるほどの夜景を作り出す街の、そのネオンのひとつ、『カラオケ』と光る看板の下を私はくぐっていた。
「ライブの打ち上げ組~! こっちこっち~!」
二組目のバンドのヴォーカルをしていた三年生(たぶんそうだと思う)が、手を上げてそう叫んだ。フロントのそばに集合して、前を歩いている人たちについて部屋まで進む。
一階の奥の突き当りにあるパーティールームに通されて、私たちは各々好きな場所に座った。
『ブラックコーヒー』のメンバーは部屋の中央にいて、アヤと美羽は出来る限りそのそばに座ろうと駆けだしていった。
私もついていこうと思った矢先、知らない人が突進してきて行く手を阻まれてしまった。
体育館、デジャブ。
知らない間に直ちゃんはショウくんの隣に座っていて、美羽とアヤもその近くにいて。けれどもその周辺の椅子は空いていなかったので、私は仕方がなくひとりで入口のそばに腰を下ろした。
なんだか、場違いな場所に来てしまったな、と思ってしまう。たぶん、周りに座っているのは一年生のコピーバンドの男の子たちで、何やら内輪で盛り上がりはじめているようだった。
「ジュース、何にする?」
突然頭上から降ってきた女子生徒の声に、はっと顔を上げた。見上げた先にいたのは、三年生(たぶん、校章の色で推測)の女の先輩で、先ほどから注文をみんなに聞いて回っているようだった。
うちのクラスにいたら、直ちゃんみたいな立ち位置のしっかり者だろうと推測できる。ちょっと怖いのを除いては。
「えっと、じゃ、メロンソーダで……」
「はーい」
真っ黒なサラサラのロングヘアーと、猫のような大きくて印象的な瞳。少し怖い印象のその先輩は、注文だけ聞くと電話の方へと走っていって、どうやら店員さんに注文を伝えているようだった。
そしてそのあと、当たり前のようにアツキ先輩の向かいに座って、彼に何かを話しかけていた。
アツキ先輩の彼女かな? と思ったけど、彼に恋人はいないと今日知ったばかりだ。
そういえば、ショウくん以外は彼女いないって言っていたな。そう思い出し、部屋の中央、今日緑色のベースを掻き鳴らしていた彼へと視線を移す。
彼――、曽根崎望くんは、少し茶色い髪を揺らしながら、アツキ先輩に向かって笑いかけていた。
「ジュースきたよー!」
誰かがそう叫び、私の手元にメロンソーダが回ってくる。ノゾムくんの方を見ると、彼もメロンソーダを頼んでいた。
しゅわしゅわと揺れる炭酸の向こうで、彼が目を細めて笑っている。グラスの中身は、彼が弾いていたベースと同じ色だ。
そしてこの時、メロンソーダを頼んだのが私と彼だけだと知って、なんだか胸の奥が熱くなった。なんでそうなったのかは、分からないけれど。
思い出す、今日のステージ。揺れるビート。熱気と高揚感。少し思い出すだけで、胸の奥が震えてはじけ飛びそうになる。
それはきっと今日のステージがとても素敵だったから。だからきっと私は、少し興奮してるんだ。その気持ちを押し込めるように、メロンソーダをごくごくと飲み込んだ。
喉の奥は、焼けるようにぴりぴりと弾けていた。
「ライブの打ち上げ組~! こっちこっち~!」
二組目のバンドのヴォーカルをしていた三年生(たぶんそうだと思う)が、手を上げてそう叫んだ。フロントのそばに集合して、前を歩いている人たちについて部屋まで進む。
一階の奥の突き当りにあるパーティールームに通されて、私たちは各々好きな場所に座った。
『ブラックコーヒー』のメンバーは部屋の中央にいて、アヤと美羽は出来る限りそのそばに座ろうと駆けだしていった。
私もついていこうと思った矢先、知らない人が突進してきて行く手を阻まれてしまった。
体育館、デジャブ。
知らない間に直ちゃんはショウくんの隣に座っていて、美羽とアヤもその近くにいて。けれどもその周辺の椅子は空いていなかったので、私は仕方がなくひとりで入口のそばに腰を下ろした。
なんだか、場違いな場所に来てしまったな、と思ってしまう。たぶん、周りに座っているのは一年生のコピーバンドの男の子たちで、何やら内輪で盛り上がりはじめているようだった。
「ジュース、何にする?」
突然頭上から降ってきた女子生徒の声に、はっと顔を上げた。見上げた先にいたのは、三年生(たぶん、校章の色で推測)の女の先輩で、先ほどから注文をみんなに聞いて回っているようだった。
うちのクラスにいたら、直ちゃんみたいな立ち位置のしっかり者だろうと推測できる。ちょっと怖いのを除いては。
「えっと、じゃ、メロンソーダで……」
「はーい」
真っ黒なサラサラのロングヘアーと、猫のような大きくて印象的な瞳。少し怖い印象のその先輩は、注文だけ聞くと電話の方へと走っていって、どうやら店員さんに注文を伝えているようだった。
そしてそのあと、当たり前のようにアツキ先輩の向かいに座って、彼に何かを話しかけていた。
アツキ先輩の彼女かな? と思ったけど、彼に恋人はいないと今日知ったばかりだ。
そういえば、ショウくん以外は彼女いないって言っていたな。そう思い出し、部屋の中央、今日緑色のベースを掻き鳴らしていた彼へと視線を移す。
彼――、曽根崎望くんは、少し茶色い髪を揺らしながら、アツキ先輩に向かって笑いかけていた。
「ジュースきたよー!」
誰かがそう叫び、私の手元にメロンソーダが回ってくる。ノゾムくんの方を見ると、彼もメロンソーダを頼んでいた。
しゅわしゅわと揺れる炭酸の向こうで、彼が目を細めて笑っている。グラスの中身は、彼が弾いていたベースと同じ色だ。
そしてこの時、メロンソーダを頼んだのが私と彼だけだと知って、なんだか胸の奥が熱くなった。なんでそうなったのかは、分からないけれど。
思い出す、今日のステージ。揺れるビート。熱気と高揚感。少し思い出すだけで、胸の奥が震えてはじけ飛びそうになる。
それはきっと今日のステージがとても素敵だったから。だからきっと私は、少し興奮してるんだ。その気持ちを押し込めるように、メロンソーダをごくごくと飲み込んだ。
喉の奥は、焼けるようにぴりぴりと弾けていた。