私が私らしくいられる場所なんて、存在しないと思っていた。もっと言うなら、ロックンロールが私の人生に与える影響なんて、ほんの一ミリもないと思っていた。
 うちの西の隅にあるおじいちゃんの音楽部屋で、丁寧に磨かれた楽器の側面が、ほんの一瞬虹色に光った時。ほのかな光を見たその数秒間でさえ、自分には関係のないことだと信じきっていた。

 私は大きな勘違いをしていた。

「ノンは感性が豊かだから、きっと素敵な子になるよ」

 おじいちゃんの皺のある手が、まだほんの七つだった私のくせっ毛を撫でた。彼の濁った瞳が揺れて、グレー混じりのくせっ毛が、夕陽を透かしてきらきらと光っていた。
 その音を聞いた時、全身が震えたのを覚えている。おじいちゃんは四本の弦が張られた楽器を持って、ヴオンとひとつ音をかき鳴らしたのだ。

 重低音だった。

 あれから十年、すっかり自信を失っていた私は、ふたたびロックンロールと出会うこととなる。
 それは世界でいちばん綺麗なもので、いちばんの恋をつれて、颯爽と現れたのだった。