「またまた」
「冗談言ってる流れに見える?」
「おーい、香川も桐原もアイスジャンケンするぞ」
 少し先を歩いている二人を呼び止めれば、二人は「また?」という顔を思いっきり浮かべていた。
「はい、さいしょはグー」
 瀬名くんの掛け声で、じゃんけんが始まる。
 なんてことはない日常が嬉しくて、少しだけ涙が滲んだ。誤魔化すように笑ってみると「泣くなよ」と瀬名くんに笑われる。
 当たり前のようで、奇跡みたいな時間が、すごく幸せで。
「あ、負けた!」
「はい、じゃあ今回は香川の奢りね」
「違う! 桐原が後出ししたから」
「おい、人聞きの悪い事言ってんじゃねーぞ、しばくぞ」
「もうヤダァ、三春もそう思うよね?」
「私はね、カルピスがいいな」
「三春まで!」
 文化祭が終わった。
 でも、この関係がずっと続いてくれたらいい。四人で笑い合えるこの奇跡のような日々が少しでも長く続いてくれたら、私はきっと幸せなんだと思う。
「綿世」
 それから、好きな人がこうして私を愛おしそうに呼んでくれたら、もう他に何もいらない。
 これからも、なんてことはない日々が続きますように。
 不確かな未来に、そう静かに願った。