それは誰にでもじゃなくて、大切な人にこそ、きちんと目を向けたい。
 近くにいればいる程、見えなくなってしまうものもあるんだ。
 だからこそ、この日常を大切に思えるように、言葉にならない叫びに気付けるように、今日を、明日を、その先を、生きていきたい。
「綿世」
 柔らかく微笑む彼が、私を見つめている。
「今日は二年と一ヶ月記念日だな」
「……またその話」
 はぁと小さく溜息をこぼした私に、
「——あの時、綿世だから言ったんだよ」
 そう、ぽつりと落とされ顔を上げる。
「え?」
「中学のときの噂のやつ。好きだったから、綿世の名前出した」
「……え、だって、たまたま目に入ったって」
「んなわけないじゃん。たまたまで綿世を使わないから」
 馬鹿なの? なんて笑われるものだから「だ、だって!」と反論する。
「そんな素振り見せないから」
「見せないよ。好きな子の前ではクールでいたいじゃん」
「クールって……」
「まぁ、それに俺があのとき、綿世に声を掛けたら余計に周りがうるさかっただろうから、何も言わなかっただけ」
 今になって聞かされるあの時の瀬名くんの想い。
 彼なりにどうやら配慮してくれていたらしい——原因は彼だけども。
「今も綿世好きだよ」
「えっ」
「何その反応」
「い、いやぁ」
 いざ好きだと言われると困ってしまう。こんなタイミングで。動揺しながら上履きに視線を——落としかけ、やめる。
「……返事は保留で」
「はは、いい度胸だな」
 少しだけ、お返し。これでおあいこだ。私だってほんとうは——。
「まぁいいや。とりあえず記念日のお祝いをしてやろう。贈呈物はあずきのアイスで」
「……苦手なんだよね、それ」